たった1文字で、自分の意図とは異なる伝わり方をしてしまった。文章には、そんな失敗が珍しくありません。

 今回は、「は」の1文字で得意先を怒らせてしまった若手の相談を取り上げます。回答するのは、SEをはじめ技術の現場で働く人を対象に文章作成の指導をしている豊田倫子氏です。

相談:「本日はありがとうございます」で顧客を怒らせた
 自社のイベントにお越しいただいたお得意様に「本日はありがとうございます」と申し上げたら、ムカッとした様子で「“本日も”だろう」と言われました。
 私は笑顔で感謝したつもりなのですが、言葉遣いが適切ではなかったのでしょうか。

 それは災難でしたね。お礼をしたはずが怒らせてしまったというのは、ショックだったでしょう。

 「本日はありがとうございます」という言葉自体にはもちろん問題はありません。今回のポイントは、相手がお得意様だったことです。

 相手は「自分はいつもこの会社のイベントに参加している。自分とこの会社は親しい存在にある」と思っていたのでしょう。ですから、「本日もありがとうございます」と、普段からの感謝の言葉を無意識のうちに期待していたのかもしれません。

 私がよく乗る電車でも「本日もご利用くださりありがとうございます」とアナウンスが入ります。これも、毎日その電車に乗っている人に向けての言葉なのだろうと感じます。

 言葉の意味の決定権は、受け取る側にあります。たった1文字でも、相手の受け取り方によっては、自分の意図とはまったく違う伝わり方をしてしまいます。今回の経験は、そのことを意識する良いきっかけだったのではないでしょうか。

豊田 倫子
コンピュータハウス・ザ・ミクロ東京
豊田 倫子 ヘルプデスクや検証技術者などを経て、約20年前から教育サービスに携わる。新入社員研修やリーダー研修、マネジャー研修などの企画コンサルティングや教材開発、研修講師、研修運営などを担当する。人材育成研修の受講生は延べ7万人。特に人気の研修が文章力で、これまでに約5000人の文章を指導してきた。日経クロステック ラーニングの人気セミナー「伝わる文章の査読・指導スキル養成講座」の講師を務める