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 仁科次長のせいでペースが乱れてしまった。檜山は結局、客先で資料をチェックすることにした。課題への対策。チェックシートを作り直して品質を担保。時間外勤務と休日出勤で順次テスト仕様書を仕上げ、五月雨式に検証を進める。移行計画書は、自分が集中作業して間に合わせる。それから、見直し後のスケジュールを、久留米主任に分かるように少し修正して…。

 昨日、前の版を突き返してきた時の久留米主任のあきれたような顔つきが、不意に思い出された。

「本当に、こんなんでできるんですか、檜山さん?」

 できるもできないも、やるしかないじゃないか。そう檜山は思った。早くリカバリープランとやらを承認してもらわないと遅れが累積するだけだ。いつまでもごちゃごちゃと言っていないで仕事をさせてほしい。

 何とかスケジュール線表を組み直し、久留米主任が気にしていた検証期間を少しだけ延ばしたところで、聞きたくもない声が聞こえてきた。

「檜山さん、ちょっと」

 檜山はうめき声を上げそうになった。部下のPL、吉山ゆかりだ。

「何か? 昼一番の打ち合わせに向けて資料を作っているんだけど」

「その資料のことなんです」

 吉山は、檜山の前で険しい表情を作った。

「スケジュールを見ました。あれじゃ実装と検証の期間が足りません。ツールの環境設定だけで一週間は掛かるんですよ。全部で一カ月半なんて、とても無理です」

 檜山は、急いでPCのディスプレー画面の向きを変え、吉山ゆかりの目に入らないようにした。たった今、実装スケジュールをさらに数日、切り詰めたところなのだ。檜山は力のない声で言った。

「順次、五月雨式に手をつけて、何とか納めるしかないよ」

 吉山ゆかりは口を尖らせた。

「五月雨式だと手戻りも出るでしょうから、余計苦しいですよ」

 檜山は唇を噛んだ。

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

 檜山が少し驚いたことに、吉山ゆかりは真面目な顔で考え込んだ。

「そうですねぇ。テスト結果エビデンスの添付を省略すれば、テスト工数を二割減らせますけど」

 檜山は首を横に振った。

「無理だよ。久留米さんは品質をどう担保するのか、方針を求めている。それもリカバリープランの一部なんだよ。エビデンスの手を抜くわけにはいかない」

 吉山ゆかりはあきれたように目玉を回すと、両腕を振り上げた。

「そんなこと言われても、できないものはできません」

 檜山は吉山を睨みつけた。こいつは、自分の担当部分しか考えていない。プロジェクト全体の見通しも、契約で定められた納期も頭になく、勝手なことばかり。思わず檜山はまくし立てた。

「できるかどうかじゃあない。やらなきゃならないんだ。だから、このスケジュールでやってくれ」

「私、責任持てませんから」

 吉山ゆかりは捨て台詞を吐いて横を向き、そのまま自席に戻った。