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「すみません、今日明日はどうしても時間が取れないので。いや『時間は作るもんだ』とおっしゃるのも分かりますが、本当に手が回らなくて…改めて電話しますので」

 受話器を置いた檜山は、打ち合わせの途中だったPLの吉山ゆかりの方を振り返った。

「すまない、また仁科次長だ」

 画面設計チームを担当する吉山ゆかりは、同情するように頭を振った。

「週次進捗レポートの催促ですね。大丈夫ですか、まだ提出していないんですよね?」

 檜山は左手の中指で、青いフレームの眼鏡を鼻梁(びりょう)に押し上げる。

「所詮は社内向けの報告書だから。仁科さんには口頭で状況を伝えているわけだし、ただの形式だよ。それよりも、顧客の課題解決を優先せざるを得ないじゃない。ほんと、本社は現場が見えてないよなあ。『マネジメントの時間は作るもんだ』って教科書みたいなこと言われても。これだけ忙しいのに進捗の数字なんか拾っている暇ないよ。そうだろ?」

 吉山ゆかりはあきらめ顔でうなずいた。

「ほんと大変ですよね、現場は」

 檜山は電話に邪魔される前の会話に戻った。

「さてと、経路探索ツールを連携する件ね、来週にはデモが見たいってユーザーさんが言ってるんだけど、準備できそう?」

 吉山は気が進まない風で首を傾げた。

「できますけど、それに掛かりっきりになると、ただでさえ遅れている画面標準化の作業がまたストップしますよ。実装開始が遅れると、さらにきつくなりそうですが」

 檜山は腕を組んだ。

「それはそうだけど、まずはデモを見ないことには画面イメージがつかめないって言うんだ。デモの優先順位を上げようよ」

「大丈夫ですかねぇ」

「とにかく、経路探索ツールのベンダーとの調整を頼むよ。俺はこれから課題検討会議だから。ああ忙しい、忙しい。何でいつもこうなるのかな」

 吉山ゆかりの反論を封じるように、檜山は卓上のノートPCを取り上げた。