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 ノートPCを抱え、浮かぬ顔で307会議室に入った檜山を待っていたのは、岡崎担当部長によるヒアリング攻勢だった。檜山の挨拶も愚痴も聞く気はないらしく、座ったか座らないかのうちに『女史』はさっそく切り出した。

「さてと。白金フーズさんへの納品対象成果物は何だったかしら?」

 檜山はすらすらと答える。

「詳細設計書とプログラムモジュール、それにワークフロー定義書です」

 『女史』は眉を吊り上げた。

「操作マニュアルは?確か提案書には入っていたはずだけど」

「ああ、あれはシステムテストの時に画面をコピペすればできちゃいますから」

「でも納品対象?」

「確かに納品対象です」

「記述レベルについては、お客様と合意済み?」

 檜山は唾を飲み込んだ。

「はい、まあ…」

 『女史』は檜山の逡巡を聞き逃さなかった。

「まあ、とはどういう意味?」

「打ち合わせの時に口頭で『コピペレベルでいいですよね』と申し上げたんです。先方は『まあいいんじゃないの』と」

「その経緯は議事録に残ってる?」

「えっと、議事録にはなかったかと…」

 思わず下を向いた檜山に『女史』は釘を刺した。

「コピペで作成した操作マニュアルのサンプルをお見せして、記述レベルを合意しておいて。合意の内容は、言った言わないで揉めないように文書化するのよ。いま私が言ったことも、ちゃんとメモしておいてね」

「あ、はい」

「テスト工程のスケジュールに操作説明書作成のタスクが入っていないわね。担当を決めて、スケジュールに反映して。できる?」

「はい」

「次に行きましょう。詳細設計書の総数は?」