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「ひえーっ」

 PLの吉山ゆかりは目を丸くしてプロジェクトルームの中を見回した。

 20人分の机、無線LAN、コピー機にプリンター、ドキュメント用のキャビネット。必要なものはすべてそろっている。

「すっごおい。この部屋、どうしちゃったんですか、檜山さん」

 檜山は、眼鏡を鼻梁(びりょう)に押し上げると、得意そうに鼻をうごめかした。

「まあその。制約を動かして、必要なものを用意するのも、PMの仕事だからさ…あっ、仁科さんだ」

 上司の仁科次長とプロジェクトマネジメント部(PMO)の岡崎担当部長が、ドアの窓越しに室内を覗いている。檜山は慌てて吉山にささやいた。

「あのね、これはカツカレーのおかげなんだ。仁科さんに何か聞かれたら、とりあえずそう答えておいてよ」

 吉山ゆかりは、丸い目をぱちくりさせて、檜山の顔を見返した。

「カツカレー? 何ですかそれ?」

 ほんの3日前のこと。檜山は、顧客であるプラチナ物産の角田次長と電話で話していた。

「来月から、みんなこっちに来てくれるんだね! 楽しみだ。待ってるよ!」

 角田次長の声は弾んでいる。

「はい。こちらも楽しみにしております。よろしくお願いします」

 明るさを装って応じた檜山だが、受話器を置くと深いため息をついた。プロジェクトルームの準備はキックオフのときから要請していた。それがようやく実現したのだから、本来は喜ぶべきなのだが…。

 檜山は、プラチナ物産から受け取ったフロアレイアウト図を机の上に広げ、その一角を占めるプロジェクトルームのレイアウトを確認すると、こうつぶやいた。

「こいつが、邪魔なんだよな」

 プロジェクトルームの中央を、大きな文書保管用キャビネットの列がでんと占拠していたのだ。

 プラチナ物産が用意したプロジェクトルームは、もともと経理部が使っていた。別のフロアに移った経理部が、移転先のスペースが手狭だったことから置いたままにしていたのだ。

 フロアレイアウト図を眺める檜山は、これまで幾度となく頭の中で繰り返してきたシミュレーションを、繰り返してみた。メンバーが使う机や機器、書類棚などの配置。何度やり直しても、収容できるのは13人が限界だった。現在のプロジェクトメンバーは19人。檜山が見積もり直した結果、当初予定より増えている。一方でキャビネットの分だけ狭くなったから、6人がここからはみ出すことになる。