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 顔を合わせた途端、仁科次長は言った。

「メシだ。メシを食いに行こう。檜山、最近また元気がないそうじゃないか。いかんぞ、それは」

「いやあの、ちょっと今日は、ご相談がありまして…」

 しかし、食事に関する仁科次長の情熱は、誰にも押しとどめることはできない。彼は、柔道でもやっていたようながっちりした体躯に見合った大食漢だった。

「話なら、メシ食いながらでもできる。お前も草食系男子ってヤツか? 肉を食わなきゃ元気が出んぞ」

 言葉の意味が少し違う。そう思いながらも、檜山はなすすべもなく、オフィスの外に押し出された。

 エレベーターの中で、それから定食屋に向かう道中で、檜山はざっと状況を説明した。公共の場所での会話だから、当然、顧客名や対象システム名はぼかしたが、さすがに仁科次長はすぐに問題をのみ込んだようだった。

「状況はわかった」

 仁科次長が、そう答えた時、二人は定食屋の前に着いていた。しかし、仁科次長はなぜか、急に気が変わったようにきびすを返した。

「やっぱり肉を食おう。こっちだ」

 正午少し前の時刻で、仁科次長が新たに選んだ焼き肉レストランは、まだ空いていた。ボックス席に着くと、仁科次長は檜山の顔を見つめた。

「で、檜山、お前はどうしたい?」

 どうって…。

 檜山は一瞬、虚を突かれた。プロジェクトに難題が発生した。一人で抱え込み、悩んでいても始まらない。それで上司に相談しようと思った。どうすべきかが自分に見えているなら、相談する必要などないじゃないか。それなのに、このおっさんときたら、いきなりどうしたいかって。