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 檜山は上司の仁科次長と顔を突き合わせていた。ここは顧客であるハクキン食品の会議室。檜山がPMを任されたのは、同社の管理会計再構築プロジェクトだ。

 今日は仁科次長の「巡回日」だった。彼は月に一度、部下たちの現場を訪れる。プロジェクトの状況を把握し、必要に応じて顧客と直接話をするためだ。

 次長自身は、この巡回日を「ご機嫌伺い」と呼んでいた。メンバーと顧客の顔色を見れば、プロジェクトに問題があるかどうかが分かるというのが、次長の持論だ。

「今日は、吉山さんは? フロアにいなかったみたいだが」

 仁科次長の言葉に、檜山は会議室の時計を見上げた。次長の到着は予定より遅れて、既に午後六時を回っていた。PLの吉山ゆかりは、元気な「お先っす」の言葉を残して帰った後だった。檜山は、苦々しげに言った。

「彼女、『宴会クイーン』ですからね。ハクキン食品さんの若手や協力会社のメンバーを引き連れて、ダーツバーかなんかに行ってます」

「そりゃ、結構なことだな」

 笑顔を浮かべた仁科次長に、檜山は元気のない口調で答えた。

「結構なんでしょうか。それより、PTアーキテクト社の遠山さんのことなんですが、どうも、思うように動いてくれなくて」

 PTアーキテクト社は、今回のプロジェクトの要となるパートナーだ。今回は海外製品の管理会計パッケージを使って再構築するのだが、PTアーキテクト社はその代理店。遠山は、そのPTアーキテクト社の中でも筋金入りの専門家という触れ込みだった。檜山自身はこのパッケージを導入した経験がなかったため、要件定義のフェーズでは遠山に頼らざるを得ない状況である。

 仁科次長は腕を組んだ。

「というと、具体的には?」

「セッションスケジュールの鳥瞰図…全体像に当たるものがまだ出来上がっていません。調整事項一覧の整備も三週間遅れています。このところセッションを二度もドタキャンしました。遅刻や早退もしょっちゅうです。セッション中は集中力が持続していないようですが、それは持病のせいらしくて」

「そりゃあ、ひどいな。要件定義の期間は来月末までだろう?」