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「ご相談がおありだとのことで…」

 仁科次長に呼び出されたPTアーキテクト社の営業担当、友澤の顔は、心なしか青ざめていた。何の用件なのか、薄々感付いているのだろう。

 檜山は、いささか意地の悪い興味を持って友澤の顔を見つめた。吉山ゆかりから情報を得た後、遠山とも再度面談して裏は取ってある。一体どう言い逃れをするつもりか…。

「そうなんですよ」

 仁科次長は、深刻な顔つきを作りながら言った。

「お聞きおよびかとは存じますが、ハクキン食品さんの要件定義が、思ったように進んでおりませんで」

「遠山から聞いております」

 友澤の頬を、一筋の汗が伝った。

「費目一覧の決着が遅れているとか。しかし、今週からペースが上がるはずです」

 友澤は苦しそうだった。明らかに、この話題に深入りしたくないのだ。檜山は腕を組んだ。ようし。どうするか見てろ。仁科のおっさんは、あれでなかなかの狸だ。甘くはないぞ。

 仁科次長は頬に笑いを張り付けたまま、友澤の顔に視線を注いだ。

「いや、実はですね。ご本人にも伺ったのですが、遠山さんに負荷が相当集中しているようですね」

 友澤はちらりと檜山の顔を見た。答え方を間違えると罠にかかるのではないかと疑っているようだ。檜山が笑みを返すと、友澤は額の汗を拭った。

「あの…遠山のスキルに、その、ご不満でもおありなんでしょうか」

 仁科次長は、目を剥いた。

「とんでもない。遠山さんにはよくやっていただいていると思いますよ。お客様からの信任も厚いようです」

 檜山は感心した。仁科次長は冷静さを保っている。内心では、かなり不満を抱いているはずなのに。そして、相手は冷や汗をかいている。仁科次長があくまで穏やかでいることを、不気味に感じているに違いない。

「で、では…」

 うろたえる友澤に、仁科次長は再び笑顔を向けた。