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1.価値観の違いを理解する

檜山 今回、吉山から話を聞いたとき、むちゃくちゃ頭にきたんです。やっぱり、自分のことしか考えてなかったってことですかねぇ。

仁科 そこまで言うのは、お前に気の毒だな。プロマネなんだから、担当しているプロジェクトを第一に考えるというのも、やむを得ないんじゃないかな。ただ、価値観は一つじゃない。お前だって、複数の価値観に基づいて動いているだろ?

檜山 私もですか?

仁科 お客様のニーズを満たす、品質の高いシステムが出来上がったとする。でも、そのために大量のSEを入れて赤字を出し、うちの連中をへとへとになるまでこきつかったとしたら、どうだ。

檜山 次長に、大目玉を食らうでしょうね。

仁科 だろ?  お前一人だけでも、プロジェクトを取り仕切るプロマネとしての価値観や、組織業績を上げたいというチームリーダーとしての価値観、メンバーを成長させようという育成担当者としての価値観なんかがあるはずだ。

檜山 まして、会社や属する組織、生い立ちや役割が異なれば、多様な価値観があって当然というわけですね。それがダイバーシティというわけか。

仁科 そう。考えてみれば、多様な価値観は邪魔ものではない。さまざまな価値観を持つ人々が集まっているからこそ、プロジェクト運営が極端に偏らず、バランスが取れる。違いを敵視せず、認め合うことが大切だよ。

2.ウイン・ウインの関係を作る

友澤 お恥ずかしい話ですが、仁科さんに呼び出されたときには、どうしようかと思いましたよ。

檜山 仁科が、クレームを申し立てると思ったんですね。実を言うと、私もそう思ってました。でも、仁科が、強くクレームを申し立てていたとしたら、どうなったでしょうか。

友澤 そうですね。実は、クレームを想定して、当社に非がないと主張する根拠は用意していました。契約上、拘束時間はありませんし、成果物と納期については、檜山さんの合意を得ている形になってましたから。

檜山 おやおや。そうなっていたとしたら、こちらはこちらで反論したでしょうね。エビデンスを出し合って、簡単には結論の出ない泥沼になっていたかもしれません。

友澤 ところが仁科さんが、弊社が悩んでいるところにいきなり切り込んでこられて、「一緒に解決策を考えよう」と言ってこられたので、虚を突かれました。それで用意していたシナリオを捨てて、こちらも本音を出すことにしたんです。

檜山 プロジェクトをともに推進する仲間なのに、会社対会社のゼロサム交渉になってはまずいですよね。

友澤 仰る通りです。一方的に相手の責任を追及するウイン・ルーズ交渉ではなく、どちらにとっても利がある結論を導くウイン・ウイン交渉に持ち込んだ仁科さんはさすがでしたね。別件での追加発注もいただけて、社内でも顔が立ちました。

3.オフミーティングを活用する

檜山 吉山さん、スマッシュヒットだったよ。遠山さんの情報がもらえたから、原因がわかって、打開策も見つかったんだ。

吉山 そうそう。もっと感謝してください。

檜山 やっぱり、オフミーティングのほうが本音を探りやすいんだろうか。

吉山 檜山さん、駄目ですよ、そんな料簡では。

檜山 え、そんな料簡って?

吉山 飲み会を利用して、相手の本音を探ろうなんて料簡ですよ。自分から普段言えない本音や性格をさらけ出さなきゃ。お互いに違う角度から知りあえるって言うのが飲み会の目的ですから、仕事の話ばっかりしてたら嫌われるだけですよ。結果的に、仕事に役立つこともあるぐらいに考えるのがいいですね。

<挿絵:大久保 友博>
小浜 耕己(おばま こうき)
スミセイ情報システム PMO部 統括マネージャ
住友生命保険で情報システムの開発とプロジェクト管理に従事。スミセイ情報システムに出向後、品質マネジメントシステムを担当し、全社PMOチームの立ち上げに携わる。サラリーマン稼業の傍ら小説家の顔も持つ。高校時代に書き始めて就職後にデビューした。SF、ミステリー、ホラー、ファンタジーなどフィクションの著書多数。日本SF作家クラブ会員、日本文藝家協会会員。