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 困った。

 檜山は、プロジェクト計画書をにらみ、頭を抱えていた。懇親会から1カ月が過ぎていたが、社内プロジェクトは、うまく進んでいない。

 根本の原因は、管理会計の根幹ともいえるKPI(重要業績評価指標)がまとまっていないことにあった。KPIの定義は経営企画部の担当で、伴野が一応の案を策定していた。だが、部内で議論が進まずいまだに役員会の議題として提示できていないのだ。当初のスケジュールでは先月の第1週に役員会に上程することになっていた。

 決算日程の策定や決算運用の課題整理も遅れている。こっちは経理部の担当だが、検討課題が多すぎて切り分けができていない上、KPIが決まらないので優先事項が定まらないという状態になっていた。こちらも約1カ月の遅れである。

 そんな状況に追い打ちをかけるかのように、週次進捗会議が2週続けて中止になった。キーパーソンである砂川と伴野が、ともに「忙しいから」とキャンセルしてきたのだ。

 社内プロジェクトなので進捗報告書の提出は義務付けられていない。プロジェクトマネジメント部(PMO)も介入してこない。だが、進捗状況も課題の解決状況も確認できないまま二週間が過ぎているのは、PMを任されている檜山にとっては大問題だった。

「このままでは…」

 焦りを感じた檜山は、目の前の内線電話の受話器を持ち上げ、経理部の砂川の内線番号をプッシュした。砂川は、5回目の呼び出し音で電話に出た。

「はい、経理部」

 ずいぶんと素っ気ない応答だ。檜山は落ち着いた口調で切り出した。

「檜山です。課題の検討状況を確認したいんだけど、時間取れないかな」

 砂川の声はとがっていた。

「いまはちょっと無理だなあ。知ってるだろ? 四半期決算の作業が始まったところなんだ。手が回らないよ」

「そうは言っても、プロジェクトがストップしては…」

「それは経営企画部の責任だろ? 檜山、お前PMなんだから、何とかうまく進めといてくれよ」

「いや、そういう問題じゃない。決算運用の課題整理が進まないと開発規模を見積もれないんだよ」

「とにかく、いまは動けない。来週…いや再来週に改めて連絡してよ。頼む。本当に手が離せないんだ」

 電話は一方的に切れた。檜山はため息をつき、今度は経営企画部の伴野の内線番号をプッシュした。こちらはすぐに応答した。

「あ、伴野さん。KPIの検討、いかがです? そろそろデッドラインなんですけど」

 愛想のいい伴野の声が響く。