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 1塁側の内野席からグラウンドを見下ろし、檜山は考え込んでいた。テレビで観戦するのと違い、カクテル照明に浮かび上がる人工芝のフィールドは、ずいぶん広く見える。そこに散らばる九人の選手はとても小さく、表情どころか体格も定かではない。

「さあ、始まるぞ」

 檜山の隣で、上司の仁科次長が嬉しそうに声を上げる。球審が「プレー」を告げ、先発ピッチャーが第1球を投じる。バッターの打ち気を誘うような外角高めのストレートが、白線を引いてキャッチャーミットに収まった。

 ボールにもかかわらず、仁科次長は自分に言い聞かせるようにうなずいた。

「うん。今日の北川は調子がいい」

 上司の姿を横目で見ながら、檜山は確信を強めた。何かある。仁科次長は、何か自分に言いたいことがあるのだ。たまたま取引先からチケットが手に入ったのだと言って、自分をナイター観戦に誘った。仁科次長がプラチナ・ファイターズの熱狂的なファンなのは事実だが、いくら何でもタイミングが良すぎる。顧客からクレームめいた電話が入った翌日に、自分を誘ってくるなんて。檜山がJリーグとNBAにしか興味がないことを知っているはずなのに。

 間違いない。次長はまた何か、自分にメッセージを伝えたがっているのだ。カツカレーのときがそうだった。手持ちの資源を組み合わせてみれば、何か解決策を編み出せるかもしれない。そのことを自分に伝えたくて、焼肉レストランのメニューにないカツカレーを注文してみせた。それがいつもの仁科次長の流儀だ。だから今日もきっと…。

「ちくしょっ」

 打球がきれいに三遊間を抜き、日経ライオンズのランナーが一塁ベースを蹴って2塁に向かう。それを口惜しそうに見ている仁科次長を尻目に、檜山は昨日のことを思い出していた。