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 「打撃コンピューター」島崎のホームランでファイターズが同点に追いつくと、試合は膠着状態に陥った。両軍の先発投手は、それぞれ序盤に失点した後は安定した投球を続け、打線もそれをなかなか打ち崩せない。たまにランナーが出ても、ヒットにつながらないのだ。

 試合経過と同じように、檜山の思考も堂々巡りをしていた。

 事前のデータ収集が重要だということは分かる。あらゆるプロジェクトは「計画8割」と言われる。つまり、どれだけ先を読み、リスクを計算して計画を立てられるかがすべてで、キックオフしたときには、既に勝負がついているのだ。

 しかし、そのことと友永物流からのクレームと何のつながりがあるのか?

 相談したい肝心なときにプロジェクトマネジャーがいないという三輪さんの苦情と「打撃コンピューター」の話は、どうも結びつかない。自分が現場に常駐できないのは、情報収集が足りないからではなく、複数のプロジェクトを掛け持ちしているからではないか。

 考えを巡らすうちに、檜山は腹が立ってきた。結局のところ、仁科次長は会社の都合を押し付けて、自分をキリキリ舞いさせているのだ。何かアドバイスしたいことがあって、自分をナイター観戦に誘ってくれたというのも思い過ごしかもしれない。単に、他に誘う相手がいなかっただけなのかも。

 つまり、仁科のおっさんは、相手が野球を好きかどうかということは気にも留めず、自分の趣味を押し付けているだけなのだ。だとすれば、「打撃コンピューター」の話にも、別に裏の意味はなかったことになる。

 考えてみれば、アドバイスをしたければ素直に口にすればいいわけで、何もナイター観戦に及ぶ必要はない。

 そうじゃないか?

 バッターボックスに立ったときには勝負がついてる、か。分からない。やっぱり分からない。