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檜山の手のひらは、緊張で汗ばんでいた。少し髪の長すぎる「萱森次長」の顔が、かすんで見える。萱森次長は、この品質評価会議注1の対象となっているプロジェクトの顧客側の責任者だ。
「レビュー指摘密度注2が目標より低いって、どういうことですか?」
萱森次長は落ち着いた声で言った。何だか、あらかじめ決められた台本を読んでいるような口調だ。
「えー」
檜山は口ごもった。
「お客様のレビューアーの業務知識に問題がある可能性があります」
実のところ、品質評価会議は初めてだ。定量評価結果を説明することも初めてだった。最近、品質管理のセミナーに参加して、定量的品質管理の重要性に目覚めたのだが、品質評価会議が、こんなに緊張するものだとは思わなかった。
「それで、どうするんですか?」
萱森次長は畳みかける。
「外部設計の業務担当者レビューは既に終わっています。今からすべてやり直していたら、サービスインに間に合いませんよ」
確かにそうだ。しかし、定量評価結果の数字は品質懸念を物語っている。このまま工程を先に進めては、サービスインしたときの品質が危ぶまれるのだ。