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「2年、いや3年前になるかな。うちに富永ってSEがいたのを、覚えてるだろ」
「もちろん。なかなか優秀だって評判でした」
「そう、優秀だった。彼は、関谷さんの部下だった」
檜山は、首を傾げた。
「確か、転職したんでしたよね。富永君は」
「その通り」
小山グループ長は、重々しく深くうなずいた。
「メーカー系の会社に転職した。実は、うちでの担当職務に不満を持ってたらしいんだ。でも彼は、関谷グループ長に一言も相談せず、転職支援会社の面接を受けた。転職先が決まってから、初めて打ち明けたんだそうだ」
「そうだったんですか」
檜山は頭を振った。グループ長にとって、それは痛い。部下との基本的な信頼関係が崩壊していたことになるからだ。
「関谷さんはね」
小山グループ長は、彼女の後ろ姿を探すように、廊下のほうを見た。