「富永には目をかけていたんだ。でも、忙しすぎて、ろくに話をしていなかった。しっかりした優秀な部下だから、かまわなくても大丈夫だと思ってたんだな。他にもっとフォローしなくちゃいけない部下がいたから。面談もおざなりに済ませてたらしい。彼女は今でも後悔してるよ。きちんと話をしていれば、もっと部下の意欲と能力を生かせたはずなのにって」
「なるほど」
そうだったのかと檜山は思った。関谷グループ長は自分の経験から、面談を適当に「こなす」というスタンスでは駄目だと知っていた。そしてそのことを、自分に伝えてくれようとしたのだ。彼女の教訓は重い。考えてみれば、部下にとって、今後のキャリアの積み方は1つひとつのプロジェクトより重要だ。ある意味、人生設計にもつながるのだから。
だが…。
檜山は迷った。
山科との面談は、もうキャンセルしてしまった。進捗会議のついでに話そうという檜山の提案を、彼は即座に受け入れてくれたのだ。
「そうですね。あらためてご相談することはありません。檜山さんもお忙しいでしょうし」と。
例のデータセンター見学が急に入ったんだから仕方がないじゃないかと、自分に言い聞かせる。
面談のチャンスは、別に今日だけじゃない。来週時間を取ってもいいし、電話で話すこともできる。第一、山科は合意したんだ。何も今さら…。
ふいに、亜佐美と真実の顔が脳裏に浮かんだ。亜佐美は、真実を抱きながら、不満そうな顔をしている。亜佐美の言葉がよみがえった。
「真実たんは、自分ではまだ文句言えないからカワイチョでちゅよねー」
わかったよ、と檜山は思った。わかった。わかりました。わかったってば。
檜山は、ゆっくりと席から立ち上がり、営業部のフロアに向かった。
スミセイ情報システム PMO部 統括マネージャ