どうすれば身体を丈夫にしようという気持ちになってもらえるだろうか。そうだなあ……心臓病が世界の死因第1位で、次が脳卒中というときに、鍛えれば長生きできるよというのはどうか。それとも、エクササイズをすると、頭がよく動いてクリエイティブになることがわかっているよというのはどうだろうか。ダメ? 確かにそういう答えは何度も聞いた。身体的にもっと魅力的になりたくない人がいるだろうか。私は魅力的になりたい。ウェイトトレーニングをして脂肪を落とせばもっと魅力的になれる。そしてほら、あれを増やすための選択肢が増える。あれだよ、あれ、子孫……。

 現実を直視しよう。ほとんどのソフトウエア開発者は、デスクの前で非常に長い時間を過ごす。一日じゅう座っている。私たちの仕事は健康とは逆の方向に私たちを引っ張り込もうとする傾向があるのだ。だからこそ、ソフトウエア開発者が健康になる方法を学べば大きな利益が得られる。

 今回は、身体を丈夫にすべき理由を深く考えてみよう。そして、明日や来週ではなく、今すぐ身体を鍛え始めるべきだと考えるようになっていただきたい。健康を手に入れれば、あなたはもっと優秀なソフトウエア開発者になれる。その理由を説明しよう。

自信をつけよう

 健康になりたいという実際の気持ちにアピールするのとは別のところからスタートしよう。私たちは誰もが健康になりたいと思っている。そして、ほとんどの人は、より健康になるために何をする必要があるかについて、少なくとも何らかの考えを持っている。それでも私たちは、ついペパロニピザを口に運び、深夜にタコベルに走ってしまう。健康になるということだけでは、身体を鍛えるための動機としては弱い。少なくとも、直接的に生命の危機を感じるようにならない限り、そんな気にはならないだろう。ただし、このことについてはすぐあとで触れる。

 そういうわけで、最初は健康な食事とエクササイズのもっとも重要なメリットのひとつである自信に注目する。自信はそれほど重要なものではないだろうと考える人も、「兄弟、俺はもう十分に自信に満ちているよ」という人もいるだろう。しかし、すでに自信は分けてあげたいくらいある人にも、自信の重要性を感じない人にも、自信をつけた方がいいし、つけられるだけつけた方がいいという理由を言おう。

 カリフォルニア大学バークレー校のハース・スクール・オブ・ビジネスの研究者たちの研究によれば、自信は才能以上に成功を呼びこむという。同じような相関関係を示すほかの研究もある。

 しかし、健康になればなぜ自信が得られるのだろうか。単純なことだ。健康だと自己イメージがよくなり、設定した目標を達成できるようになる。自信は外にも現れ、他者との対話ややり取りに投影される。そして、科学的根拠は少し劣る説明だが、いい感じに見えれば、いい感じになれる。

 スリムなジーンズが似合い、シャツの腕の部分がすっと伸びれば、どんなに気持ちいいかを想像してみよう。自分は健康だと感じることができれば、行動様式が変わる。自分自身に対する見方が変わり、周囲の人々とその業績をどれくらい脅威に感じるかも変わる。そして、他人があなたをどのように見るか、どのように感じるかも変わってくる。

脳のパワー

 エクササイズで賢くなるというのは本当だろうか。賢くなるかどうかはわからないが、スタンフォード大学の最近の研究によればウォーキングは創造性を60%も伸ばすことができるという*1。この研究で、オペッツォ教授は、学生たちにある創造性テストを受けさせている。テストはものの使い方を考えるなどの創造力を測る活動から構成されている。

 学生たちは、最初はデスクに向かい、座ってテストを受ける。そのあとで、トレッドミルで歩きながら同じようなテストを受ける。ほぼすべての学生が、創造力の大幅な向上を示した。歩いてから座る学生にも同じテストを実施したが、結果はやはりウォーキングの効果を示した。

 これはどういうことだろうか。ウォーキングには、少なくとも脳のひとつの機能(創造力)に大きな効果を与える。しかし、私はもっと多くの機能にも影響を与えるのではないかと思う。

 個人的な経験からは、エクササイズをして健康になればなるほど、私は仕事のパフォーマンスが上がっているように思う。身体的にベストの状態になっているときには、集中力がかなり上がり、仕事がはかどることを感じる。私の「Get Up and CODE」ポッドキャスト(後述)では、ジョン・パパやミゲル・カストロなどの有名な開発者のゲストにインタビューしているが、彼らもやはり同じ経験をしていると言っている。

 実際のエクササイズや体脂肪率によって自分が賢くなり、集中できるように脳内で化学的変化や構造的変化が起きるのか、それともただ気分がいいので仕事に集中できるのかをはっきりと言うことはできない。でも、理由がどちらなのかは大切なことだろうか。

 いつも疲れていて仕事にやる気が出ないとか、ピークの力で仕事ができていない感じがするなら、食事を変えてエクササイズすれば、身体と頭の両方を甦らせることができるかもしれない。

恐怖心の除去

 すぐに恐怖心に訴えたりはしたくはないが、それでも肥満になっていたり全般的に不健康になっていると、本来なら防げる様々な病気にかかるリスクを抱えることになる。

 私は「Get Up and CODE」という開発者向けのフィットネスについてのポッドキャストを製作している。このポッドキャストで多くの開発者たちにインタビューをした。彼らは、自信をつけたり脳のパワーを上げたりするためではなく、死に近づいていることを感じたために、何とか健康を取り戻した人々だ。

 特によく覚えているのは、ミゲル・カストロの健康への道のりについての話だ。彼はもともと体重や健康のことなどにあまり注意を払わないソフトウエア開発者だったが、ある日、病院に担ぎ込まれるような恐怖を経験し、そこから生活習慣を非可逆的に一変させたのである。

 ある日、ミゲルは車でデイケア施設から息子を連れて帰ってきていた。そして、突然左手にしびれを感じた。彼は、外が寒いからだろうとか、どこかに強く手をぶつけたからだろうと思い、無視した。

 その日の夜、ミゲルは横になってうたた寝をした。ほとんどいつも夜遅くまで起きていたので、これは彼としては奇妙な行動だった。彼の妻は、この奇妙な行動について夫に尋ねた。彼は左半身全体がしびれたような感じだと答えた。妻は、彼を病院に連れていかなければと強く思った。脳卒中を起こしたのではないかと思ったのである。病院に着くと、彼の血圧は190/140 になっていた。これはよくない、まったくひどい数値だ。

 結局、ミゲルは無事だった。大ごとにはならなかった。病院は彼を検査して翌日帰したが、それから1か月間、彼をモニタリングし、様々な検査を実施した。彼はこの経験ですっかり怖くなり、きっぱりと生活を切り替えた。

 180日で33kgも体重を落としたのは、ワークアウトプログラム、特別な食事、ジム通いなどによるものではなく、精神状態によるものだとミゲルが言ったときのことははっきりと覚えている。このときの怖い経験から、彼は健康やフィットネスについて真剣に考えるようになった。ソフトウエア開発者として積んできたキャリアを投げ捨てて、ほかの人の健康目標達成を手伝い、励ますフィットネスコーチになったほどだ。

 この話をしたのは、読者を怖がらせるためではない……いや、実際には怖がらせるためか。しかし、あなた自身の話ではなくミゲルの話から怖がっていただきたい。自分の話になったときには手遅れかもしれないのだ。ミゲルは、怖い思いをしたものの、大したことではなかったので幸運だった。しかし、それほど幸運ではない人も多い。警告抜きでやってくることだってある。本気になる前に心臓発作で死んでしまったり、ほかの病気でひどい状態になることだってある。手遅れになることだってあるのだ。

 手遅れになるようなことがあってはならない。今すぐ本気になろう。

出典:「SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル」(日経BP)の一部を抜粋・編集
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。