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「でも、どうやって顧客でさえ気がついていない課題やニーズを見つければいいんでしょうか」と疑問をぶつけてみた。

「どうしたらいいと思う?」

「ジョブズの言うように、心の叫びを聞くことでしょうか」

「ジョブズは天才だから、そこに期待するのは宝くじを買うようなものだよ」

 そう言って、森田さんは私の肩をたたいた。

「現場に行くことだよ」

「現場」

 思わず聞き返した。

「例えば、自動車メーカーのホンダには三現主義というのがある。『現場』、『現物』、『現実』の3つを直視するということだ。これは必ずしも、顧客のニーズを探すための言葉ではない。ホンダでは、自動車の開発・生産・販売・メンテナンスまですべてに三現主義の考え方が染み込んでいる。自分が実際に触れたものや見たものでなければ信じないということだ。顧客でさえ気がついていないニーズを知るためには、顧客の現場に行くことだ。仮説を立てたら、それを確かめに現場に足を運ぶ。あまりに当たり前だが、百聞は一見にしかずは、やっぱり正しい」

 森田さんは私に顔を向けた。

「ここで重要なことは、マーケティング担当や営業だけでなく、技術者も経営陣もなるべく多くの人が現場に足を運ぶことだ。情報を歩いて集める。客先にも、販売店にも、商品が使われている現場にも。ネットばかりに頼っていては駄目だ。これがあるから、どうしても頼ってしまうがな」

 森田さんはスマホを手に取った。その画面には孫と思われた女子高校生の写真はなく、代わりにスタイルのよい黒人の女性がポーズを取っている写真が載っていた。これまで建設業は顧客である自治体の言う通りに仕事をしてきた。自治体の言う通りに橋を架け、道路を作ってきた。それをこれからは、自治体が気づいていないニーズを探して、橋や道路を提案しなければいけないということだ。現場に行くだけで、自治体が気づいていないニーズが見つかるのか、分からなかった。

 そこに森田さんが助け舟を出してくれた。