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 シリコンバレーは夜の10時を回っていた。今頃、日本は日付が変わって翌日の昼2時のはずだ。ホテルのテーブルでパソコンから専務宛てにメールを送信した。こっちに来てから専務宛てのメールとしては最初になる。

 言われたことはできていないが、シリコンバレーに来てからのことを報告しておいたほうがいいと思ったからだ。初日は、講演を聴講し、ITベンダーを訪問したこと、二日目はエネルギー関連の展示会を見学したことをそれぞれ簡単にまとめて報告した。森田さんに教えてもらったことは、書くと説明が長くなると思って書かなかった。最後に新規事業の候補はまだ見つかっていないことを付け加えた。

 明日の朝には返信が来ているだろう。

 そして、これまで森田さんに教えてもらったことをリストにして、スマホに入力した。空港で教わった経営者の心構えやほらを吹いて仲間を増やすことなど、すぐに実践できなくても役に立ちそうなことを、とにかく忘れないようにしておきたかった。

 まだ時差ボケも少し残っているが、明日もあるので横になった。

 何の音だろう…。

 真夜中に目が覚めたとき、人はすぐには状況を理解できない。最初に寝ていたことに気がつく。そして目を開けて、暗いことを確認して寝坊していないことに安堵する。

 ここはどこだっけかな。

 そうだシリコンバレーに来ているんだった。

 時差ボケが解消して、少し眠れていたことにホッとする。

 何時だろう。

 まだ音がする。

 ここで初めて自分の携帯電話の音であることに気がつき、暗がりで電話に出た。