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 シリコンバレーは都市ではない。サンフランシスコから南へ車で1時間ほど下ったサンフランシスコ湾の南部一帯を指す言葉だ。1955年にマウンテンビューという場所にショックレー半導体研究所が開設され、その周辺に半導体産業が集積したことから、半導体の主材料であるシリコンの名前がつけられた。

 1970年代後半から1980年代にかけてアップルやシスコシステムズなどコンピューター分野の企業が数多く生まれ、今ではグーグルやフェイスブックなどインターネットの世界的な大企業が本社を構える。グーグルもアップルも、時価総額は5000億ドルを超えているから、2社だけでも1兆ドル以上。日本円にして100兆円を軽く超える。シリコンバレーの企業の時価総額を全部足したら、とんでもない額になるだろう。

 だが、バスの窓から見えるシリコンバレーの様子は、そんな巨額の金がうごめいているような場所には見えない。どこかのんびりとしている。シリコンバレーは雨が少なく、1年のほとんどが晴れている、のどかな場所だ。

 こうしたシリコンバレーの歴史もグーグルの時価総額も気候の話もすべてスマホですぐに調べることができる。バスの中でも簡単に検索できてしまう。便利な世の中になったものだなどと、つい年寄りくさい言葉が口に出る。

 バスは3日目の目的地である工場へ向かっていた。

 隣の席では権田さんがうたた寝している。昨日と同じようにバスに乗り込んできたと思ったら、今日は「新規事業の候補は浮かんだか」と言いながら、空いていることも確認せずに私の横の席に座ってしまった。新規事業の話は、特に進んでいないので、「まったくです」とだけ答えて、昨日、森田さんに聞いた話をした。