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 虎の子の技術の話を聞いて、我が社もビジョンを描く必要性を感じた。文系の方がビジョンを描くのが得意であるとなれば、文系である自分のやるべき仕事だ。今は、早く日本へ戻ってビジョンを描いて、それを目指した新規事業開発の活動をしたい気持ちだった。一方でツアーも四日目なのに、新規事業の候補が一つも挙がっていないことは気がかりだった。「ほらを吹け」や「顧客には尋ねない」など、森田さんから新規事業を始める上での考え方を教えてもらえたのはいいが、そのノウハウを試してみる事業が決まっていないのだから。

 新しい事業のヒントでもあればと思いながら、午前のプログラムがあるセミナー会場に向かった。中央のステージに向かって椅子が100席ほど、すり鉢状に並んでいる会場だ。なるべく後ろの席に座って、これまで教わったことを思い返しながら、うちの会社のビジョンについて考えることにした。

 まもなくIoTに関するセミナーが始まった。モノがインターネットに接続されて相互に連携しながら最適な状況に制御される。人が入力する情報や位置情報の発信源と考えれば、スマホもIoTの一部だ。

 前の方の人がスマホで講演者を撮影しているのが見えた。フィルムカメラを駆逐したデジカメさえ、スマホが取り込んでしまった。写真フィルムやデジカメの落ち込みをヘルスケア系事業で補った富士フイルムの話を思い出した。

 富士フイルムは、写真フィルムの売り上げが落ちると分かっていたので、デジカメ事業を立ち上げた。しかしデジカメもスマホに市場を奪われて台数は大幅に減った。

 今では富士フイルムは、医薬品や化粧品に力を入れている。スマホで富士フイルムの決算推移を調べると、2000年代は2007年まで順調に売り上げを伸ばしていたことが分かる。2008年のリーマン・ショックで売り上げを落とし、2009年には赤字に転落したものの、そこから一転して2010年は黒字にV字回復した。このV字回復に医薬品や化粧品が、一役かっていることは想像できる。