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「それだけじゃないよ。写真の色があせるのは酸化が原因だが、肌のシミやシワの原因も同じ酸化なんだ。だから、写真フィルムで培った抗酸化技術の知識が化粧品の開発に役に立った。ほかにも再生医療につながったコラーゲンがある。コラーゲンは写真フィルムの主成分でもあり、富士フイルムは培養法でのコラーゲンの作製に成功していたことが、役立ったんだな」

 森田さんは、富士フイルムは抗酸化剤だけで何千種類も開発していると教えてくれた。

「写真フィルムの技術を応用すれば、今までにない機能性の高い化粧品や医薬品、再生医療製品を作り出せると考えて、それまでX線画像診断や内視鏡のような診断機器を手掛けていたヘルスケア事業の領域を拡大していったんだ」

 技術に類似性があるのは分かったが、いつどうやってそのことに気がついたのだろうか。

「でも写真フィルムにまい進していたら、その技術が化粧品や医薬品みたいな他の分野の技術と類似しているなんて気がつかないんじゃないですか」

 森田さんは写真フィルムにまい進していたからこそ、その類似性に早くから気がついたことを説明してくれた。

「化粧品や医薬品との類似性に早くから気がついていた技術者がいたんだよ。その技術者は若い時に写真フィルムの工場に勤務していた。トラブルがあると、いろいろな方面の文献を調べたらしい。課題を解決するために医学系の学会へも足をよく運んだそうだよ。そのころに写真フィルムと医学や化粧品の類似性に気がついたんだ。学会へ行くと『なんでフィルムメーカーがこんなとこにいるんだ』とよく言われたそうだよ。社内でも写真フィルムの事業が好調なうちは、医薬品をやろうと言っても相手にしてくれる人はいなかった。しかし、デジカメが現れ、写真フィルムの需要が落ち始めると、それを補う新しい事業が必要になった。そこでその技術者は社長に提案したんだ。それが、化粧品や再生医療の新事業を立ち上げることにつながったってことだな」

 そして、森田さんは新規事業を見つける上で重要な視点を教えてくれた。

「単なる思いつきではなく、技術の類似性があったんだ。これは逆T字型なんだ。深く掘り下げて一つのことを極めたら、それを横に展開する。これが逆T字型だ」

「新しい事業を始める場合、この逆T字型が望ましい」


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