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「農地では、環境データを収集して、収穫量を増やしたり、暗黙知として保持している農業のノウハウを誰でも継承できるようにして、後継者不足を解消したりしようとしていますね」

 話を聞きながらサラダを食べ続けているが、大きなボウルの底がなかなか見えてこない。この大量の野菜もいずれはIoTで制御された農地で作られるのだろうか。

「世界的に見れば人口爆発で食料不足はもっと深刻になるでしょうから、もっと計画的に、効率よく作らなきゃいけませんからね。IoTは欠かせなくなるのかもしれません。

 IoTはどんどん生活の中に入ってきています。それもあらゆる分野で一気に来ている。IoTではなく、すべてのものがつながるという意味でInternet of Everything 、IoEという言葉も使われ始めているくらいですから」

 そこで伊塚さんが私に向かって話を切り出した。

「町づくりにもIoTは入ってきているから建設業界にも大きく関係してくることは間違いないよ」

「それはエネルギーとかですか」と、私はサラダを食べる手を止めて聞いた。

「エネルギーもそうだけど」と前置きしてから、伊塚さんは欧州のサッカー場の問題点を挙げて説明し始めた。「ウィーンでは、サッカーの試合の時の地下鉄駅の混雑解消に向けて実証実験を始めている。ウイーンにあるエルンスト・ハッペル競技場は収容人数が5万人を超えるから、大きな大会が行われると試合の後、地下鉄のホームに人が溢れて危険な状態になってしまうんだ。そこで、人の流れを分析し、地下鉄の入り口にジグザグの通路を設けたり、スライドドアの開き具合をリアルタイムに制御したりして、駅構内に入る人と地下鉄に乗って駅を出て行く人の数を同じになるようにしたんだ。これのおかげでスムーズに輸送でき、ホームに人が溢れて危険な状況になることがなくなったんだって」

 確かにスポーツ観戦の後の人混みは避けたいし、少しでも早く家に帰るか、お店にでも入って、試合の興奮を家族や仲間と分かち合いたい。さらに伊塚さんが続けた。

「これをもっと発展させて、町の中の自動ドアやエレベーター、エスカレーターを制御して、電車やバスの位置情報とも連動させると、人の移動をもっとスムーズで安全にできるかもしれない。IoTで世の中はもっと生活しやすくなるよ」

 そこに権田さんが、デパートどころか町全体とは、と感想を加えた。伊塚さんは、便利になるものの、そこでビジネスをする難しさを感じていた。

「ただ、そこでビジネスをするのであれば、その仕組みを提供するエコシステムに入り込んでいなければいけないですよね。例えば、エレベーターメーカーがエレベーターのことしか考えていなければ、他社とは連携しにくい。そうなると事業は拡大しない。それはITベンダーも同じことです」

 その時、森田さんが現れた。