「人の移動をスムーズにして混雑緩和を目指すのであれば、人の流れをセンシングして、エレベーターの動作を制御する。さっきのウィーンのスポーツ会場の例なら、地下鉄の運行状況とも連動する必要がある。でも、社会的課題として町全体の省エネを考えるのであれば、町の中にある太陽光発電やエアコンの動作状況を把握して、省エネモードでエレベーターを運転するなどの制御が必要になるよな。社会的課題を決めなければ開発の方向性も決まらないということだ」
権田さんが森田さんの意見に同調して、さらにコメントを加えた。
「それさえ決まってしまえば、エレベーターメーカーは人の動きをセンシングする技術や太陽光発電の状況を解析する技術まで自社でやらなくても、パートナー企業に任せればいいということか」
「虎の子の技術の話のときに言っていたことですね」自動運転車の中では娯楽サービスが提供されるという話を思い出して、相づちを打った。
その時、森田さんの仲間のテーブルから森田さんを呼ぶ声がした。森田さんは片手を上げて応えると、話を続けた。
「ただし、その解析の結果がエレベーターにどう影響して、何が求められるようになるのかは、知っていないと競争で負けてしまう。だからパートナー企業を早く見つけて、エレベーターに求められるものが何かを知ることが大事だ。それで開発の方向が決まるからな」
ここでもう一度、声が掛かり、森田さんは我々に笑顔を見せて仲間のテーブルへ移動した。
日経BP総研 クリーンテック研究所
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