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「次の携帯電話機ではグーグルとアップルにやられている。ガラケーの時代はよかったのに、すっかりシェアを奪われた」

 権田さんは、シリコンバレーにそびえる大きなビル群を見つめている。そして、「IoTでは巻き返したいなあ」とつぶやいた。

 権田さんはフォークとナイフを持ち、「さあ、ステーキを食べよう」と気持ちを入れ替えて言った。

 そのまま食べようとする権田さんを見て、私は思わず遮った。

「権田さん、ステーキの写真は撮らなくていいんですか。SNSに上げるんでしょう」

「これは食べていないことにしないといけないからね」と、権田さんはステーキを切り始めた。「スマホで食べたものの写真を撮ると、カロリー計算してくれて食事管理してくれるアプリを妻が私のスマホに入れたんだ。そのデータが妻の携帯にも送られるから、食べ過ぎるとすぐに怒られる。でもさすがにアメリカで何食べているかまで分からないから、最初に出たサラダとスープの写真だけ写して黙っていれば大丈夫。カロリー計算した数字しか送られないから。ちなみに、スマホに内蔵されたセンサーで日々の活動量が計測されて、このデータも妻に送られているんだ。完全にデータ管理されているよ」

 そう言いながら、ステーキをおいしそうに食べ始めた。

 こんなによく食べる権田さんがアメリカでサラダしか食べてないなんて、そんなことを奥さんが信じるはずがない。いくらカロリーの値だけが送られるとしても、全部ばれていると思うが、そのことには触れずに、アプリの話をした。

「そんな健康管理アプリがあるんですか。すごいですね」

「こんなのが無料でダウンロードできるから困ったもんだよ」

 伊塚さんが権田さんを見てニヤニヤしながら話した。

「これでカリフォルニアに出張した日本人の健康データを集めて、メタボ予防サプリの会社にでも売ったらいいんじゃないですか。データが集まれば、サプリの需要を計算して、工場の生産効率アップに生かされたりするかもしれない」

 私は、先日訪問した工場の3Dプリンターが注文に合わせて動いている様子を思い出した。日本からの出張者の数に合わせて、どこかで3Dプリンターが動き出しているかもしれない。

 さらに伊塚さんが言った。

「国も社会保障費の負担を減らすために、メタボ予防のデータを取って、個人に健康アドバイスすることを検討していますよ。メタボ予備軍になると、『運動しなさい、しなければ保険料を上げます』という具合にアラートが出されるそうです」

 権田さんは伊塚さんを見て言った。「カミさんだけじゃなくて、国からも怒られるようになるのか」

 権田さんは太ったお腹を見て、しょんぼりした。

 伊塚さんは権田さんのしょんぼりした顔を無視して、IoTの世界でのソフトウエアの重要性について話した。