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「スピードだと思います」

 私の正面の人が熱く語り始めた。「ベンチャーは、規模では大企業に勝てませんから、スピードで負けるわけにいきません。実際、それはうちの生命線です」

 四日目の午後は、4人1組でのグループディスカッションだった。テーマは「ベンチャー企業は何を競争力にすればいいか」だが、メンバーの中にまさにベンチャー企業を立ち上げた人が入っていた。4人は四角いテーブルに座り、一人ずつ順番にテーマについて思うところを語ることになっている。最初の発言者である彼は、自身の経験もあって、アイデアの事業化や顧客対応におけるスピードにおいて、大手に負けてはいけないと強く感じているようだった。

 続いてその隣の人が話し始めた。この人は、ベンチャーに投資する大企業に勤める人だった。

「私は一つとがった技術を持っていることだと思います。うちはベンチャー企業への投資や育成に力を入れていますが、投資先を選ぶポイントは技術力です。場合によっては技術も提供して、そのとがった技術を補完します。いずれ協業して自社のビジネスを広げることにつなげていきたいと思っています」

 加えて、いま投資している企業のビジネスモデルについて説明してくれた。

 さらに私の隣の人も話した。

「うちの会社では、ソニーのSAP(Seed Acceleration Program)を真似して、社内ベンチャーを支援しています。ソニーのSAPというプログラムは、アイデアを持っている社員が手を上げて、審査を通れば事業化できるものです。これまでならソニーがやるレベルの事業規模ではないと見捨てられていた小さい規模の事業でもやらせてもらえる。これまでにも、電子ペーパーを使った腕時計や、スマホで遠隔地からでも操作できるドアの鍵など、いくつか興味深い事業が立ち上がっています。このSAPを参考にして、私の会社でも新しいアイデアを持っている人に社内起業してもらおうと、募集を始めました。そうしたら若い人は結構いろいろとアイデアを持っていて、今は選ばれたアイデアを事業化するのに大忙しです。だからベンチャー企業は発想力で勝負すべきだと思います」

 私以外の3人は、個人レベルであれ社内であれベンチャー的な活動に関わりがあり、話が具体的だった。しかし、新規事業開発部への配属が決まっただけでツアーに参加している私には、話すことがなかった。