全3642文字

 困り果てて仕方なく、森田さんに聞いた「ほらを吹け」の話をしてみた。仲間を増やすために、積極的にほらを吹いて、夢を見させることが起業したり、事業を創出したりする上では大事だと思うと話したら、参加メンバーはみな身を乗り出して、「確かに周りを巻き込むコミュニケーション力は大事だ」と言ってくれた。いまどきは、ベンチャーを立ち上げる野心があって、夢を語るのを恥ずかしがらない人がたくさんいるらしい。多少のほらを吹くぐらいのことはできるようだ。森田さんの笑った顔と白い歯が頭に浮かんだ。森田さんに感謝しないといけないな。

 夕食は、森田さん、権田さん、伊塚さんと一緒に4人でイタリアンレストランへ行った。

 茹ですぎたスパゲティに味の濃いトマトソースがからまっていて、なんとも食が進まなかった。3人を見ると、森田さんも伊塚さんも私と同様にあまり食べていない様子だったが、権田さんだけはせっせと口に運んでいた。

 伊塚さんは、グループディスカッションで、何がヒットするか分からないから、アイデアがあったら、とりあえず形にするという人がいたという話をした。

 形になっていないと、人が意見を言ってくれない。だからモックアップでいいから作って人に見せるようにしているという。場合によっては無償で提供して、使った感想を聞くらしい。

 ここで森田さんが「アジャイル開発みたいなものだな」と言った。そしてアジャイル開発について説明してくれた。

 アジャイル開発とは、顧客とエンジニアが一つのチームになって、短期間に実装からテスト、修正、製品化を繰り返しながら完成度を高めていく開発手法だ。主にソフトウエア開発で使われている。

 伊塚さんの会社では、プログラムを組むのに、最初の段階で大掛かりな仕様書を細部まで丁寧に作って、それをブロックに分けて、その各ブロックをプログラマーに頼んで作ってもらっている。最後にそれぞれのブロックを組み合わせていくという大掛かりな作業をして完成する。計画した通りのものができるメリットはあるが、途中で変更があったり追加したいことが発生したりしても、即座に対応しづらい。

「世界的にシステム開発のトレンドはアジャイル開発に向かっていて、とにかく作る、試す、直す、を繰り返して完成させるようになってきています。それなのに日本の大手ITベンダーは古いやり方を続けています。分業が進み過ぎているんです。仕様書を書いているシステム設計者たちはプログラムを書けなかったり、書いたこともなかったりする。これでは日本の大手ITベンダーはベンチャーや海外の企業に勝てませんよ」

 伊塚さんが不安を口にした。

 森田さんによると、最近は素早く形にすることが求められる。複雑な社会は、様々な要因が絡み合って、ニーズが多様化している。その多様化したニーズが刻々と変化している。それに対応するためには、素早く形にして、修正しながら完成に近づけていくほうが望ましいという。そして、開発段階からパートナー企業の意見を取り入れるようになったパナソニックの例を話してくれた。