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「パナソニックは以前、家電製品の新製品の情報を発表当日までまったく外部に漏らさなかった。でも2年ほど前、その方針を変更したそうだ。もちろんマスコミなどには出さないが、パートナー企業などには、まだ完成しない段階で見てもらうらしい。意見をもらうためにな。『こんなのだめ』と言われてしまうこともあるが、そうしたら、出直せばいい。『ちょっと使ってみたい』と言われたら、試作品を納入して、使った感想を聞く。こうして、商品が完成するまで試行錯誤を繰り返す。そうしないと消費者ニーズに合った商品ができなくなってきているんだ。昔もそういう一面はあったんだろうが、今ほどものが溢れていなかったから、新規性があれば売れて商売にはなったんだろう」

 権田さんは森田さんの話を聞きながらスパゲッティを食べている。森田さんは横目で権田さんを見ながら一口ビールを飲むと、再び話を続けた。

「例えば2000年代、家電メーカーは、テレビやビデオ、カメラや電話機をデジタル化すればよかった。Whatは分かっていて、Howを考えれば済んだわけだ。でも、今はWhatが分からない。何を作ればいいのか。製品を発表したときに『なに、これ?』と言われてしまうことになる。だから、早めに製品を一部のパートナーや顧客に試しに出して、先に意見をもらうようになってきているんだ」

 ここで森田さんが権田さんの食べている姿を見て、質問した。

「確か権田君は、食べる料理を写真に撮って健康管理しているんだったな。写真を撮ると、スパゲッティだと判断してカロリーを算出してくれるって話だったが、日本のスパゲッティ一人前とアメリカの一人前とではかなりカロリーが違うよね。その差は考慮されているのかい」

「一応、写真に撮ると、皿に盛りつけられた分量まで計測しますから、アメリカのスパゲッティは日本のよりは高カロリーで計算されますよ。でもどこまで正確かは分かりません。かなりアバウトだと思います。例えば、ごはんをおかわりした場合、自分で何杯食べたか入力しなければ1杯で計算されますから」

「この前のステーキみたいに写真を撮らなければカロリーに含まれませんしね」

 伊塚さんが権田さんをからかった。

「権田君の摂取カロリーを正確に把握するには、まだテスト、修正を繰り返して、完成度を上げないといけないようだな」

 森田さんが伊塚さんに調子を合わせてそう言ったので、全員で笑った。

 森田さんはビールを飲んでから、話を企業の商品開発に戻した。