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 ビールののど越しが気持ちよかったのか、森田さんは笑顔で話を続けた。

「実は技術を磨くときも同じようなことが言える。顧客に使ってもらって、厳しい目にさらすことで上の段階に行けるんだ。やはり顧客がいると、思いもよらない要求をしてくるし、要求の数も多くなる。その要求に対応することは、ただ研究室で実験しているよりも手間がかかって大変だが、何より実践的だ。

 例えば、東レの炭素繊維は、元々は航空機用を目指して開発されたんだ。でも航空機の素材は、強度などクリアしなければいけない条件が高くて、当時は対応できなかった。だから航空機で採用される前に、もっと条件が緩かったゴルフクラブや釣り竿の素材としてまず実用化した。事業を続ける上でキャッシュを得ていなければならないということもあるが、そういう経験で技術を磨くという目的もあったんだよ。そして研究を粘り強く継続して、強度を上げて、当初の目的だった航空機に使われるところまで来た」

 森田さんが、今度はピザを頬張った権田さんを見て、また質問した。

「それにしてもよく食べるな。こうして皆でシェアしているときは、写真を撮ったら食べ過ぎだって言われてしまうだろうに」

「そういう場合は写真で撮った後に、4人でシェアというボタンを押せば大丈夫なんですよ」と権田さんが答えた。人の分まで食べている権田さんには都合のいいシステムだ。やはり、まだまだ改善の余地がありそうだ。

 森田さんはウエイターを呼び、ワインリストを頼んでから、話を続けた。