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「最初の顧客をどこにするかは重要だから、慎重に選ばなければいけない」

「意見を言ってくれるパートナーや厳しい目で批判してくれる最初の顧客をどの企業にするかは、実は重要なことなんだよ。その商品の方向性を決めることになるんだから。先に試作品を試してもらうパートナーや顧客の選び方次第で、その後の商品開発で迷走してしまう可能性だってある」

「顧客をこちらから選ぶんですか。顧客から選ばれることばかり考えていましたが、発想が逆ですね」と私は意見を言った。

「先進的な取り組みや発想を持ったところを見つけることだ。大切なのは企業の大小や業績じゃない」

 そこでウエイターがワインリストを持ってきた。

「もっとも、新しい価値に気がつくような先見性があって、その新しい価値に向かって行動する先進的な企業は限られるから、自然と対象企業は決まってくるものだ」

 そう言って森田さんはワインを注文した。

「パートナーにしても顧客にしても、価値観が同じであることが重要な要素になる」と森田さんは言った。そして、先進的な企業を見つけるためには、自社の感度を上げることが大切だと付け加えた。

 そう言いながら、ワインをテイスティングすると、森田さんはウエイターにうなずいた。ウエイターが各自のグラスにワインを注いでいると、シェフが来て、我々のテーブルの真ん中に大皿の料理を置いて言った。

「これは日本人をターゲットにして、試しに私が作った料理です。食べて、意見を言ってもらえませんか」

 真っ先に権田さんが手を伸ばして、自分の皿に盛りつけた。どうやらドリアのようだが、中からは緑や黄色の食材が現れた。見た目には、すぐにどんな味か想像できない。権田さんが一口食べて、何か考えている。

 私も少し皿に取って食べてみた。予想していた味と違い一口で口いっぱいに甘さが広がった。日本人をターゲットにするなら醤油味などにすればいいものを、なぜこの味なのか理解できなかった。4人とも一口ずつ食べたが、誰も言葉を発しなかった。

 するとシェフが自慢げに説明してくれた。