今回は説得力のあるドキュメントを組み立てるときに主張内容の検討に必要な、課題解決のための2種類のロジックツリーについて解説する。原因を探索するための「因果ネットワーク」と、対策を検討するための「ゴールツリー」だ。

 それぞれの使い方を前回の場面の続きで説明する。顧客に納入した自社システムの応答が遅くなったことから対策が求められているという事例で、前回は調査の結果、DB処理のパフォーマンスが悪化していることが原因だと分かった。

 原因をさらに深掘りしたところ、次のような事情が明らかになった。

 顧客のサービスは当社がシステムを開発納入したときから順調にユーザーを増やし、サービスの種類も増えています。今回、システムの応答が遅くなっている主要な原因は大きく2つになります。1つは、ユーザーとサービス種類の増加により処理対象となるデータ量が増えたことです。そのためデータ量に比例して、DB処理に要する時間が増えています。

 もう1つは、新サービスを実現している他社システムが当社システムの処理に必要なデータを頻繁に更新していることです。そのため更新処理待ちの時間が増えています。

 この事情を示しているのが図1の因果ネットワークである。この図は問題事象を引き起こしている原因事象を矢印で結んで表現するもので、原因にはさらなる原因があるので多段の構造となる。ループを生じて悪循環することもあるため、作られる構造はツリー構造よりも自由度の高いネットワーク構造になる。図示することによって課題解決の検討が進めやすくなる。

図1●因果ネットワーク
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 この状況を踏まえて性能改善のために取れる対策として、次のような手段を検討した。

 最終目的である当社システムの応答性能改善を達成する手段には、大きく、当社機能のDB処理を改善することと、他社システムによる影響を減らすことの2つがあります。

 当社機能の処理改善の手段には、まずDB処理の高速化があります。具体的には、インデックスの付与やSQL文の見直しが考えられます。大量データを処理するため、DB処理を並列化することも考えられます。

 他社システムの影響を減らす方法としては、更新待ちを避けるために共通箇所を参照しないように改修することと、他社システムの機能を改修することが考えられます。

 この検討結果を示したのが図2のゴールツリーだ。この図は、目的をその達成手段に分割していくもので、達成手段をより具体的な達成手段に分解していくことでツリー構造になる。図示することで解決手段を網羅的に把握できる。なお、ここで挙がっている手段はアイデアの段階であり、すべてが実現可能とは限らない。

図2●ゴールツリー
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原因の解消で課題を解決

 因果ネットワークを用いる課題解決の基本は問題の原因を解消することで課題を解決するというものである。対策を打てない原因も存在する。この例では、ユーザーやサービス種類の増加は望ましいことで、解消するわけにはいかない。こうした事象は原因ではなく、与件、つまり与えられた条件であるといえる。

 ゴールツリーの場合は、手段の実行で目的が達成されるという関係で結ばれた構造である。因果ネットワークと比較すると、1階層目の自社の処理か他社の処理かの2つに分かれるところまでは共通だが、そこから先の構造は異なる。

 因果ネットワークとゴールツリーは、似た構造になることが多い。前者における原因の解消が、後者の課題解決の手段になることが多いためだ。両者の図にある、番号付きの矢印がそれぞれ対応している。例えば矢印1は、DB処理時間の増加を解決する手段(図1)が、DB処理の高速化(図2)になる、といった具合だ。

 似ているため混同してしまうと説得力が失われるので要注意だ。因果ネットワークは、起きている事象を事実として表現しているのに対して、ゴールツリーは目的によって手段を整理している点で大きく異なる。起きている事象の間に因果関係があるからといって、それらを解消する解決手段の間には直接の関係はない。

 最後にこれらの分析結果が前回紹介したピラミッドストラクチャーとどのように関係するのかの例を図3に示す。原因分析の結果のうちのどの原因が主要因であるかの検討を加え、他社システムによる更新処理待ちが主要因だと結論づけている。また、目的の達成手段はどの手段に実現性があるのかの検討を加え、他社システムによる更新処理待ちは自社だけで解決できないと結論づけている。さらにこれらを根拠として、性能改善のために他社システムの機能改修の実施を要請すべきだという最終結論を導いている。

図3●ピラミッドストラクチャー
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 以上、今回は課題解決のための2種類のツリー構造について説明した。違いをよく理解し、納得感のある分析ができるように習熟してほしい。

林 浩一(はやし こういち)
勝負ドキュメント研究所 代表、ピースミール・テクノロジー 顧問
林 浩一(はやし こういち) 富士ゼロックス、外資系データベースベンダーを経てウルシステムズに入社。自治体・大企業のシステム内製化とPMO に特化した関連会社として同社を設立、初代社長に就任。現在は、代表を退き顧問として同社社内の人材育成を主に活動しつつ、社外の技術者のスキル向上のために勝負ドキュメント研究所を開設。
出典:日経SYSTEMS、2019年5月号 pp.16-17
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