前回と前々回で、非常に分かりにくい文章を理解するために、文章の構造を分析する方法を説明した。分析に用いたのは、課題解決や業務の流れを表す構造である。構造を分析することで、書き手が伝えたい意図を明らかにした。

 今回は分析した構造から、文章を組み立てる手順を示す。構造の分析結果を使うことで、意図が明確な文章を組み立てられることを説明する。

 前回使用した修正前の例文を図1に示す。この文章を分析した結果が図2図3だ。図2は課題解決構造を用いた分析、図3が業務の流れを表す構造で分析した結果である。これらの図を使って、図1の例文を組み立て直していく。図中の赤い線と①~⑨の番号は、修正後の文章を構成する各要素に対応する(後述)。

図1●修正対象の例文
[画像のクリックで拡大表示]
図2●課題解決の構造
[画像のクリックで拡大表示]
図3●関連する業務の流れを表す構造
[画像のクリックで拡大表示]

 以下、図1の文章をどのような手順で組み立て直すのかを示す。

3層論理構造に対応付ける

 分析結果の構造から文章を作成する際の基本的な考え方を図4に示す。分析した構造(図4では課題解決構造)を論理的な文章の構造である「3層論理構造」に対応付け、この構造を基に文章の流れを組み立てる。

図4●論理構造から文章を作成する流れ
[画像のクリックで拡大表示]

 論理的な文章は、「主張/結論」「根拠」「コンテキスト」の3要素からなる。この構造を、筆者が体系化したロジカルシンキングの進化形「ストラテジックライティング」において3層論理構造と呼んでいる。

 論理の構造は一般的に、根拠によって主張や結論を支えている。しかしそれだけでは、説得力のある文章にはならない。なぜその論理を組み立てているのかという意味や意義を理解するための情報が必要だ。ストラテジックライティングでは、このための情報をコンテキストと呼ぶ。

 課題解決構造を3層論理構造に対応付けると、最初の問題設定がコンテキストに、分析の結果として導かれる対応策が主張/結論となる。問題と対応策を結びつけるのが原因であり、これが3層論理構造における根拠に当たる。

 この3層論理構造を、さらに文章の流れとして組み立てていけばよい。今回の例では業務の流れも構造として分析しているので、その内容はそれぞれの説明を理解するのに必要なコンテキストとして補足していく。

 コンテキストは、文章を組み立てるときに最初に示す。記述する必要があるのは、「課題意識」「用語定義」「背景情報」の3種類だ。このうち特に重要なのは、何を課題と考えているのかについての情報である。用語定義と背景情報は、課題意識を伝えるのに必要な情報を補足する形で記述していけばよい。

 こうやって、図1の例文を組み立て直した文章を図5に示す。なお、文の先頭にある①~⑨の番号は図2と図3の論理構造との対応を示すもので、実際の文章には必要ない。

図5●修正後の文章
[画像のクリックで拡大表示]

 図5の文章では、コンテキストは「目的」という見出しで、①~③の文によって記述している。まず、①では解決したい問題を示し、その対応策を示すことを文章の目的として明示している。

 続く②と③で、提起した問題を理解するのに必要な業務全体の流れを説明している。最初に②で基本的な見積もり依頼の作業の流れを、③で他システムへの影響見積もり依頼が発生する流れを説明している。この後に①の文を繰り返している。込み入ったことを理解した後に何の話だったのかを忘れる人が多いため、重要なことなので念を押している。

 根拠と主張/結論の説明順序は、一般的にはどちらを先にしても構わない。ただし業務上の文章においては、結論を先に記述することが推奨されるケースが多い。結論が先に書いてあれば、後半を必ずしも詳細に読み込まなくてもよい場合もあるため、業務上のコミュニケーションを効率化できるからだ。

 ここでは、先に結論を示す。「結論」という見出しで、2つの対応策を示している(④)。それぞれの内容の説明に加えて、対応策2は対応策1の実施が前提となっていることを記述している。

 最後に「検討内容」という見出しで、根拠を説明する。基本的には、問題の原因を明確にしてそれに対して手を打つという考え方になる。まず、⑤で原因には大きく2つあることを示し、続く⑥で1つ目の原因を解決する対応策1を示している。

 次に2つ目の原因と対応策を示したいところだが、これは業務の流れにおける、見積もり依頼資料、見積もり結果資料、影響見積もり依頼資料の関係が分からなければ理解できない。そこでこれらを⑦で説明している。その上で、⑧で2つ目の原因にはより本質的な原因が2つあることを示し、最後に⑨で対応策2を説明している。本質的な原因の1つは、対応策1で解決できると想定していることも併せて説明している。

構造を順序立てて説明する

 組み立て直した図5の文章が、図2と図3の構造を網羅的に説明していることを確認してほしい。全体の構造を順序立てて説明することで、文章を組み立てることができるのだ。

 分かりにくい文章をレビューすると、その文章をどのように添削すべきか頭を抱えることがある。このとき、文単位で修正してもきりがなく、完全に書き直さなければならないことがある。そんなときには、これまでの連載で説明してきたように、いったん元の文章の構造を分析して、意図の理解を試みてほしい。

 構造の分析によってその文章の意図を深く理解できれば、その理解を明確に表現するための文章を書き起こすことで、元の文章の抜本的な修正が可能になる。

 ダメな文章を修正すると、文章量が増えることが多い。今回の例でもそうだが、本来複雑な話であるにもかかわらず、説明を省いていたということにほかならない。説明すべき前提が省かれているため分かりにくくなっている例は非常によく見られる。注意してほしい。

林 浩一(はやし こういち)
勝負ドキュメント研究所 代表、ピースミール・テクノロジー 顧問
林 浩一(はやし こういち) 富士ゼロックス、外資系データベースベンダーを経てウルシステムズに入社。自治体・大企業のシステム内製化とPMO に特化した関連会社として同社を設立、初代社長に就任。現在は、代表を退き顧問として同社社内の人材育成を主に活動しつつ、社外の技術者のスキル向上のために勝負ドキュメント研究所を開設。
出典:日経SYSTEMS、2019年9月号 pp.20-22
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。