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 「予測・判断を支援する機能が重要ならば、同様のシステムは以前からあったのではないか。なぜ今になって、AIが注目されているのか」。第1回を読んで、こう思う人も多いはずです。

 確かに昔から、予測や判断を支援するAIはありました。代表例が「エキスパートシステム」と呼ばれるものです。人間が過去の経験や知識体系を整理し、プログラミングによって構築したものを指します。このタイプのAIは、限定的な事象の判断や、問題の解決を目的に、「IF THEN…」といった人間があらかじめ設定したルールを組み合わせてデータベースから必要な答えを検索してくるものです。

 代表的なエキスパートシステムの1つが、1972年に登場した「Mycin(マイシン)」です。Mycinは細菌の専門医の経験則をプログラミングしたもので、細菌感染の診断をするシステムとして、医学分野で最初に成功を収めました(図1)。

図1●昔からあったAI
図1●昔からあったAI
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 米国のスタンフォード医学部での調査によると、Mycinの診断は約65%の正解率を誇っていました。「専門医の診断」の正解率(約80%)には及ばないものの、「細菌感染の専門家でない医師」よりは優秀な成績でした。

 エキスパートシステムの登場により、現在の日本の状況と同じように、1980年代もAIに大きな期待が寄せられ、ブームとなりました。1982年に国家プロジェクトが発足し、500億円以上もの予算がAIの推進に投入されたのです。

 このように勢いに乗ったエキスパートシステムでしたが、大きな欠点が2つありました。1つはエキスパートシステムの開発に膨大な手間と時間がかかることです。エキスパートシステムを構築するためには、専門家の知見をルールとして、手動でデータベース化していく必要がありました。

 2つめの欠点は、人間が使う曖昧な表現をエキスパートシステムではルール化できないことでした。曖昧な表現ができない結果、ルール間で矛盾が生じるなどの課題が明らかになり、複雑な実問題に対して満足な結果が得られないケースがありました。

 これらの欠点が次第にエキスパートシステムの発展に歯止めをかけてしまい、当時のAIブームは終焉を迎えました。