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 前回のシーンで、目的・目標を達成するためのユーザーのコミットや、期限の制約の中での管理・運営の重要性はお分かりいただけたと思います。では、独自性(一度限り)の部分はどうでしょうか。もう少し、掛川さんに付き合ってみましょう。

失敗の構図:「うまくいく」前提の計画 問題発生時にリカバリできない

「困ったねえ」

 福山主任が、渋い顔で腕を組んだ。

「異動担当のスタッフには十分に時間を確保してもらったつもりだったのに、こういうことになるとは」

「そうですね」

 掛川はうなずいた。

 組織改正を含む大掛かりな人事異動が10月に発生すると分かったのは昨日である。これによって、プロジェクトは三つの大きなインパクトを受けることになった。一つは、検証作業の遅れである。異動担当者の手がふさがるため、予定していた通りには検証作業が進まない可能性が高い。

 二つ目は、遅延に伴う要員確保の問題である。異動関係業務は品質要求が高いので、検証作業とその後の修正のために、10月は多めのプログラマを手配している。しかしほぼ全員が、11月からは別のプロジェクトにアサインされている。作業が後ろにずれ込むとなると、必要な要員が確保できない。

 三つ目は要件・仕様の揺り戻しだ。今回の組織改正の規模によっては、設計の大幅な見直しが発生するかもしれない。だが、改正内容はまだ社内でオープンにされておらず、現状では影響を見積もることすらできない。

 福山主任は、腕を組んだままで言った。

「考えてみれば、2カ月前のリスク検討会議で上がっていた懸念事項だったな。それが最悪の形で現実になったわけだ」

「そうでした」

 掛川も、思い出しながらうなずく。

「組織変更の可能性と異動の規模について、異動担当スタッフの熊田さんから情報が入ったんですよね。で、対策を検討したわけですが…」

「未確定事項のために当初計画を動かすわけにもいかないということで、人事部長に開発計画を再度説明することで対策としたんだが、甘かったなあ。結局その後、ほったらかしになったものね。先週の会議のときの、あの熊田さんの煮え切らない態度に、何となく嫌な予感はしてたんだけど」

「立場上はっきり言えなかったけど、今のスケジュールでは無理だと思ってらしたんですね。

「組織改正については、企画部中心で動いていたから、人事部も口出しできなかったらしいよ」

 福山主任は、すがるような目つきで掛川を見つめた。

「至急、検証計画を立て直さなくちゃいけないけど、いい考えはないかな、掛川さん」

「さあ…」

「組織改正に影響のない機能の検証を前倒しで進めるとか、SEに検証作業の支援をしてもらうとか。何とかならないだろうか」

「厳しいですね。機能の切り分けはできていませんし、移行にも影響が出ます。検証支援要員はほとんど協力会社のメンバーで、10月に契約が切れることになっていますし…」

「うーん」

 2人は、顔を見合わせてため息をついた。