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 実効性のある対策の立案、実施は重要ですが、それほど簡単なことではありません。また少し、掛川さんの様子を見てみましょう。

失敗の構図:情報感度の低さと読み不足 メンバーの心情が分からず対立を生む

「北田さん、大丈夫?」

 会議室で青い顔をしてせき込み始めた北田邦子に、掛川が問いかけた。北田は左手を口元に当ててせきが治まるのを待ち、小さな声で言った。

「ちょっと気分が悪くて…。申し訳ありませんけど、この打ち合わせ、欠席させてもらえませんか?」

「風邪かい?」

「じゃ、ないと思うんですけど…」

 たばこのせいかな、と掛川は思った。プロジェクト・ルームの外の廊下に、喫煙スペースがある。一応換気装置はあるのだが、それでも煙とにおいが流れ込むので、プロジェクト・メンバーからは不評だった。北田が時折せきをしているのも知っていたが、ユーザーの事業所に間借りしているプロジェクト・ルームだから、掛川には打つ手がなかった。

「体調の問題なら仕方がないね。大丈夫。北田さんは早めに帰って、ゆっくり休んでください」

 掛川は、内心舌打ちをしながら言った。今日の進捗会議では、ユーザー課題の解決の遅れを相談するつもりだった。福山主任の部下の実務担当者も出席する。話し方がソフトでユーザーの受けもいい北田は、こういう席では重宝するメンバーなのだが…。

「すみません」

 北田は頭を下げて、会議室を出て行った。入れ違いに、福山主任とその部下の飯島が部屋に入ってくる。

「あれ、北田さん、今日は欠席?」

 福山主任の問いに、掛川が答える。

「すみません。ちょっと体調をくずして…」

 福山主任と飯島が席につくと、会議が始まった。懸案の課題管理に議題が進むと、掛川は少し緊張した。

「それで…。ユーザー部門に検討をお願いしております課題の解決が、どうも思わしくありません」

 福山主任が、ちらりと部下の飯島に目をやった。

「どの課題かな?」

「課題管理一覧表の5番、6番、9番がそれに当たります。まず、5番は組織コードの整理ですが…」

 福山主任が、厳しい目つきで飯島を見た。

「組織コードは前に整理が終わったと聞いたぞ。まだ未決なのか?」

 飯島は、口をとがらせた。

「終わりましたよ。こちらでやれるところまで整理して、後は案を出してくれって、北田さんにお願いしているところです。掛川さん、そうでしょ?」

 掛川は首をかしげた。北田からもっと詳しい話を聞いておかなかったことが悔やまれる。

「ええと、北田の話では、前提条件に当たる本部機構の扱いが、まだはっきりしていないそうでして」

 飯島の声のトーンが、急に高くなった。

「こちらのミスみたいに言わないでください。6番なんか、そちらの検討不足から急遽代替策を出さないといけなくなった話でしょう。もちろん検討はしますけど、我々も作業ピークなんです。おたくの技術チームに質問しても3日もほっておかれるし、急かされたってすぐに答えられるわけがないじゃありませんか」

 掛川はたじたじとなった。飯島に作業が集中している課題検討の体制を見直してもらおうと思っていたのだが、どうも話は思うように進んでいないようだ。