全2222文字

 さて、もう少し、掛川さんの道具の使いぶりを見ていくことにします。

失敗の構図:使えない道具 実態を反映しない組織定義は機能しない

「とにかく、変更の優先順位を付ける必要があるね」

 掛川が大急ぎで作成した「変更要望一覧表」を見つめながら、神山部長は言った。 「こうして見ると、業務上は致命的でない不要不急の変更が多いようだけど、代替策の検討はできていないわけだ。代替策の検討をお願いして変更量を減らさないと、このプロジェクトは身動きが取れなくなる」

 ずいぶん変更要望が多いと思いながら、必死で対処に駆け回ってきた掛川だが、改めて一覧にしてみると、変更対象となっている要望の数に背筋が冷たくなった。かなり追い込んで対応してきたつもりだったが、工数にして5人日以上の変更要望がまだ10件以上残っている。数時間で対応できる規模のものも入れるとその数50件近くになる。ここ2週間で減るどころか増えていたのだ。

「バグなのか変更なのかあいまいなものも、相当数あるな。営業からの追加費用の折衝も必要になるだろうが、現時点では、お金の話に手間をかける余裕もなさそうだ。プロジェクトの組織図と役割分担表を見せてくれるかな。あと、会議体一覧もあったはずだね」

 神山部長は、掛川が差し出した組織図と役割分担表に目を落として、唸った。

「これは…。僕もうっかりして見過ごしていた。やりにくいはずだよ、この組織定義では」

 掛川は、部長が指さしている組織図を見た。彼にはどこが悪いのか分からない。神山部長は、役割分担表と会議体一覧を、掛川の方に押し出した。

「今問題なのは、変更要望を調整して優先順位を付ける機能だ。組織図だけ見ると、この福山主任がその役目を負っているように見える。実際はどうかな?」

 掛川は、思い出しながら答えた。

「人事系の要望なら、福山さんにもさばけるんですが、総務と企画の業務については判断できないようですね。その分、思いもよらない変更要望が出ていますし、代替策の検討も進まない感じです」

「そうだろう」

 神山部長はうなずいた。

「一方、福山さんの上はいきなり光石専務で、この専務は進捗会議にも出席しておられない。つまり、名目上の看板オーナーで、部門間調整ができるほどプロジェクトの実態を把握されていないはずだ。経理、総務、企画の代表者も、進捗会議に出てきていないし…。つまり、このプロジェクトの組織定義では、そもそも変更要望の調整が機能していないんだ」

「そんな…」

 組織図など、と掛川は思った。プロジェクトのキックオフ以来、見直したこともない。組織図や役割分担表は、標準化された帳票として作成することになっているから作ったまでで、プロジェクトの道具だなどと考えたこともなかった。