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 Amazon Web Services(AWS)を使いこなすには、AWSのサービス一つひとつの機能、特性、制約、価格体系を理解し、複数のサービスを組み合わせてシステムを構築していくことが必要です。AWSのサービスは100以上あり、それぞれに複数のインスタンスサイズ、オプション、料金プランなどがあります。それらを理解するのは大変です。

 そこで本講座を含む「AWS基盤設計の基本」のシリーズ講座では、企業情報システムで重要なAWSの主要サービスに絞って説明し、コーポレートサイトのシステムを題材にその活用方法を具体的に説明します。

 解説した内容に対する理解度は、演習問題によって確認できます。演習問題は、AWS認定のミドルレベル資格である「AWS認定ソリューションアーキテクト-アソシエイト試験」の難易度を想定しており、試験対策にもなります。AWS認定ソリューションアーキテクト-アソシエイト試験については後述します。

 本講座、AWS基盤設計の基本[ネットワーク設計編]で扱うテーマは、クラウドの基本とネットワーク設計です。

 今回は、AWSというクラウドサービスを使うメリットとデータセンターの構成を取り上げます。

「クラウドとは何か」にどう答えるか

 最初に質問です。クラウドコンピューティングとは何でしょうか。分かっているようで、企業の役員や利用部門の人から聞かれると意外に答えるのが難しいこの点から解説を始めましょう。

 一般にクラウドコンピューティングは、アプリケーションやインフラなどのITリソースを、自社で所有するのではなく、ネットワークを経由して必要に応じて利用する形態を指します。そのような利用形態が可能なITリソースの提供者を「クラウドサービスプロバイダー」と呼びます。

 AWSはワールドワイドでシェア1位のクラウドサービスプロバイダーです。提供しているサービスは100以上。全てをAPI(Application Programming Interface)経由で利用でき、基本的に使った分の料金を支払う従量課金制です。

 AWSをはじめとするクラウドサービスを利用するメリットを一言で表すと、従来のインフラに比べて「安く」「早く」「簡単に」なることです。

 安くなる最大の理由は、従量課金なので、従来のオンプレミス(自社所有)環境に比べて余剰なITリソースを持たなくて済むからです。オンプレミス環境では、深夜のようなシステムを使わない時間帯も、1社でITリソースを専有します。クラウドなら、必要な時間だけITリソースを確保し、その分だけの料金を支払う。だから、安くなります。

 さらに規模の経済が働き、ITリソースの原価を抑えられることも安さにつながります。2019年3月時点で、AWSのユーザー企業は数百万社に上り、物理サーバーは数百万台といわれます。ユーザー企業が1社で調達するのとは、ITリソースの単価が大きく違います。しかも大規模なので運用自動化のメリットが大きいことも、安くできる要因の一つになります。

 次は早くなることです。従来のオンプレミス環境では、インフラ調達がビジネススピードの足かせになることが少なくありませんでした。ネットで提供しているサービスの利用者が急増したとき、インフラの調達に1カ月も掛かるようではライバルに後れを取るでしょう。

数分でインフラの調達が完了

 AWSではインフラの調達が数分になります。AWSはITリソースをある程度余裕を持って準備しています。そのリソースを、AWSの営業担当者や運用担当者といった人を介することなく、ユーザーが管理画面などからAPIにリクエストを送ってセルフサービスで調達する。だから早いのです。

 数分でITリソースを調達できるので、システム構築前に性能や容量を見積もるキャパシティープランニングが不要になります。これにより、作業の工数だけでなく、インフラ投資のリスクも減らせます。

 AWSを使うことにより、サーバーの選定、調達、設置、保守、運用といった作業を大幅に効率化できます。ユーザーは、ビジネスの差異化要因としてより重要なアプリケーション開発に注力できます。

 AWSが提供する100以上のサービスは、仮想マシン、ストレージ、ネットワークといった低レイヤーのITリソースだけでなく、データベース、分析ツール、開発者用ツール、管理ツール、モバイルサービス、IoT、セキュリティ、アプリケーションと多岐にわたります。そして毎週のように、ユーザーのニーズに基づいて新機能や新サービスを追加しています。アップデートの頻度は年々高まっており、機能追加などのアップデートが2017年は年間1430回、2018年は1957回も行われました。

 AWSの様々なサービスを組み合わせることで、拡張性や耐久性(データを失わないこと)が高いシステムを、従来より安く早く簡単に構築することが可能になります。

 世界展開も簡単に行えます。AWSのデータセンターは世界中にあります。全てのデータセンターで基本的なサービスを共通して提供しており、統一されたAPIで操作できます。そのため、日本であろうと、米国であろうと、シンガポールであろうと、全く同じ手順でアプリケーションを展開することが可能です。