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 席に座った途端、今泉が話し始めた。その日は、新システムの要件定義をする上で必要な、現行業務の整理作業の初日だった。現行システムの開発後に業務の変更があり、それに応じて改修が発生した。だがその部分は、きちんとドキュメント化されていない。カミヤシステムズの3人が、その把握と整理の作業に取りかかろうとしていた。

 どう作業を進めるか。志野物流の社員たちとカミヤシステムズの3人の打ち合わせで、衝突が起こったというのだ。システムのユーザーである現場の担当者に確認をしたいと主張する今泉に対し、高森がソースコードの確認を求めたのだ。

 「現段階でソースコードの確認から始める方法では、工数に無駄が出てしまいます。DXによる改革の指示が出ているそうなので、先に現場の担当者による業務確認を行ってから、システム上必要な機能かどうかを確認したいのですが」

 こう今泉は主張する。だが高森は聞き入れない。

 「そんなことをしては現場が混乱します。元々の当社の計画通り、先にソースコードを確認して機能詳細を作ってください。
 そもそも今泉さんは、我々のプロジェクトの下請けという立場です。余計なことは考えないで、我々が指示する作業を着実に進めていただければいいのです」

 「私たちは確かに下請けですが、経験は高森さんよりもあります。その経験を生かしてこのプロジェクトを成功に導きたいと思っているのです。それでも、意見するなと言うのですか」

 「アドバイスはありがたいのですが、あくまでもこれは当社のプロジェクトです」

 こうしたやりとりが続き、最終的にはプロジェクトルームの外まで届くような大声での応酬になってしまったのだという。どうやら、プロジェクトに対する今泉の意欲はすっかりそがれてしまったようだ。

野口 雄志
グリットコンサルティング代表
野口 雄志 1953年東京都生まれ。日本通運でIT部門のトップを務める。15年の米国勤務で米国日通米州地域情報システム部長などを歴任。帰国後、全社IT部門の責任者として新時代に対応する「IT改革プロジェクト」を成功させ、ムーブメントを起こす。2014年4月に定年退職後、グリットコンサルティング設立。日本のITビジネス関連や物流関連への経営・戦略コンサルティング、企業の人材育成などを手掛ける。全国でのセミナーや講演を通して、個人も企業もそれぞれが活力を持って働けるエンゲージメント経営への改革を支援している。米国プロジェクト・マネジメント協会(PMI)認定PMP(プロジェク・マネジメント・プロフェッショナル)を取得。グリッターフレンズ代表取締役、流通経済大学客員講師