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 さて、全体会議の結果はどうだったのでしょうか。志野物流の会議室に戻ってみましょう。


 全体会議が始まった。最初にあいさつに立ったのは、プロジェクトオーナーである財務担当役員と、CIOである。プロジェクトオーナーは「志野物流の未来に向けた重要なプロジェクト。全社を挙げてサポートする」とメンバーを鼓舞し、CIOは「志野物流のDXの大きな一歩。日本のスタイルではなく、グローバルスタンダードを意識して進めたい。全責任は自分が取るから思い切ってチャレンジしてほしい」と力強く語った。それらの言葉は、その場にいる全員のモチベーションを高めるのに十分だった。

 続いて野島が、プロジェクトの全体方針を説明した。

  • パッケージの基本部分にカスタマイズは加えない
  • 最初に稼働させるのは日本ではなく、米国拠点にする

 各国の担当者からは、何の異論も上がらなかった。積極的な参加表明が次々となされ、グループ全体のチームワークでこの大型プロジェクトを成功させようという前向きな雰囲気で会議は終わった。

 全体方針の内容はもちろん、野島がプレゼンしたことの効果が大きかった。野島の過去の米国での働きぶりは、他国の拠点でも知られるところとなっていた。このプロジェクトマネジャーとなら一緒に仕事をしたいという信頼関係が、プロジェクトのスムーズな滑り出しを可能にしたのだ。

 全体会議が終わった当日の夜は、各国法人の担当者が一堂に会しての懇親会だった。懇親会の実施も野島の発案だ。グローバルでのコミュニケーションを促進することで、今後の仕事を進めやすくしたいという狙いだった。

 その場で野島は、米国からやってきたスコットとスティーブと久しぶりにゆっくりと話した。3人が集まると思い出話に花が咲く。スコットが言う。「当時のリックさんの英語は、お世辞にも上手とは言えなかった。今だから言えますが、時々何を言っているか分からないことがありました(笑)。でもあなたの笑顔と、一生懸命我々に向き合っているという誠実さはよく伝わりました」

 野島はうれしさと懐かしさで胸がいっぱいになった。「日本まで来てくれてありがとうございます。あなた方の存在は私の誇りです。同僚として今回のプロジェクトに参加してくれたことに感動しています」

 スティーブがいたずらっぽく言った。「リックさん、言葉遣いが堅すぎますよ。もっと力を抜いて行きましょう。Take it Easy!」

 「そうでした、あのときもお二人によくTake it Easy!と言われたものでしたね」――野島は目を細めた。

 この野島の様子を、高森と勝見は会場の隅から眺めていた。「野島さんの若いころの経験が、今に生かされているんですね」。しみじみと言う勝見。その言葉を聞く高森の胸の中には、自分もいつかは海外拠点に赴任したいという思いが湧き上がっていた。

野口 雄志
グリットコンサルティング代表
野口 雄志 1953年東京都生まれ。日本通運でIT部門のトップを務める。15年の米国勤務で米国日通米州地域情報システム部長などを歴任。帰国後、全社IT部門の責任者として新時代に対応する「IT改革プロジェクト」を成功させ、ムーブメントを起こす。2014年4月に定年退職後、グリットコンサルティング設立。日本のITビジネス関連や物流関連への経営・戦略コンサルティング、企業の人材育成などを手掛ける。全国でのセミナーや講演を通して、個人も企業もそれぞれが活力を持って働けるエンゲージメント経営への改革を支援している。米国プロジェクト・マネジメント協会(PMI)認定PMP(プロジェク・マネジメント・プロフェッショナル)を取得。グリッターフレンズ代表取締役、流通経済大学客員講師