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日経FinTech2020年6月号の転載記事となります。

新型コロナウイルスの感染拡大により、中国では中小零細企業支援の大号令がかかっている。これを背景に存在感を強めているのが「デジタル銀行」だ。伝統的金融機関とは異なる与信審査手法や顧客接点を持つのが強み。その技術力を活用した伝統的金融機関が、デジタル化へのシフトを加速している。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、中国の中小零細企業は深刻な影響を受けた。中国人民銀行は財政部、銀行保険監督管理委員会とともに30に及ぶ金融支援政策措置を打ち出し、預金準備率を3回も引き下げた。3000億元の特別優遇再貸付など数々の措置を講じ、中小零細企業の業務継続を後押しする。

 さらに政府は大手商業銀行に対し、中小零細企業向けの貸出伸び率40%以上という数値目標を定め、対策を強く求めた。経済の先行きが不透明な中、金融機関は中小零細企業への支援と、リスクコントロールの両立といった課題に直面している。

 中小零細企業に融資を提供する際に、直面したのは外出自粛やソーシャルディスタンスの壁だ。金融機関は、窓口ではなくオンラインで融資を受けられる、非接触型融資サービスへの取り組みを加速した。

 例えば、中国工商銀行は感染症拡大期間中に、中小零細企業の業務再開や従業員の雇用保障を支援するため、オンライン融資「用工貸」(雇用維持融資)を急きょ導入。3月末までの期間で重点領域の企業向けに、3334億元もの融資を提供した。Ant Financial傘下のネット専業銀行の網商銀行も他行と協力して、3月5日から4月30日の約2カ月間で3667億元のオンライン融資を実行し、約840万社の中小零細企業にサービスを提供した。

 工商銀行の用工貸は、貸出先企業における過去の給与支払い状況、入出金履歴、金融資産といった内部データだけではなく、電気料金の支払い状況、取引情報、信用情報などの外部データも取り入れて与信審査する。

デジタル銀行の力を借りる

 中国銀行が発表した「2020年第2四半期グローバル銀行業展望報告」では、コロナ禍で拡大し始めた非接触型サービスは、中国の銀行のスマート化、デジタル化を加速させると見込んでいる。

 ただし非接触型サービスには、eKYC(Know Your Customer)や銀行内外のデータを活用したリアルタイムでのリスク識別が求められ、伝統的金融機関にとって短期間で構築するのは容易ではない。

 一方、リアル店舗を持たないネット専業銀行は、この分野が得意とされる。前述の網商銀行の場合、「310」と名付けられた超高速融資が有名だ。申請項目の記入に必要な時間は約「3」分、システムが「1」秒で融資可否を判定、審査における人手の介在は「0」という。AI(人工知能)による審査のみで瞬時に判断するが、2019年の返済不履行は1.3%程度に抑えている。

 中国ネット専業銀行の代表格である微衆銀行(WeBank、テンセント系列)、網商銀行(MYBank、アリババ系列)、新網銀行(XWBank、シャオミ系列)を従来のネット銀行と区別して、「デジタル銀行」と呼ぶ。政府からの至上命令に対応するため、伝統的金融機関はデジタル銀行の力を借り、迅速な融資を実現し始めている。