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 ウクライナに侵攻したロシアへの制裁措置として、欧米が国際決済ネットワーク「SWIFT(国際銀行間通信協会)」からロシアの一部銀行を排除することを決めた。国際決済から締め出すことで貿易を停滞させ、経済に打撃を与える狙いだ。SWIFTに詳しい麗澤大学教授の中島真志氏は、「兵糧攻めのようなもの」と表現する。制裁の効果やSWIFTのガバナンス、中国やロシアが構築する国際決済ネットワークの存在感など、気になる点を中島氏に聞いた。

(聞き手は岡部 一詩=日経FinTech編集長、田中 淳=日経FinTech シニアエディター)

SWIFTに詳しい麗澤大学教授の中島真志氏
SWIFTに詳しい麗澤大学教授の中島真志氏
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「SWIFT」が制裁手段として使われるのようになったのはなぜか。

 SWIFTの情報を活用した最初の例として挙げられるのは、2001年の米同時多発テロにおいてだ。米中央情報局(CIA)がテロ組織の資金を追跡するために、SWIFTのデータを使った。これは大きな成果を上げたとされ、米国が有用性に気づいたのだろう。

 当時、SWIFTは2センター体制を採っていた。欧州センターと米国センターで相互バックアップする格好だ。米国でコンピューターセンターを運営している以上、米国にデータを見せろと言われれば断るのは難しい。

 実はSWIFTは、CIAによるデータ活用が判明した後、スイスに第3センターを構築した。欧州センターのデータをスイスでバックアップするように変更し、今は米国には送られない仕組みになっている。やはり、反発があったのだろう。

 SWIFTからの排除という形の制裁を公に発動したのは、2012年のこと。イランによる核開発問題を巡って、同国の銀行をSWIFTから遮断した。今回の対ロシア制裁と異なるのは、イランの全銀行を対象にした点だ。これによって、2015年の「イラン核合意」が成立したとされる。つまり、イランは3年でもたなくなったということ。SWIFTからの遮断は、大きなインパクトがあると言えるだろう。

今回はロシアの銀行7行を対象としている。

 ロシアのSWIFT参加行は300行とされる。そのうちの7行は少ないというのが第一印象だ。当初は、「一部銀行を遮断」と報じられていたので、大手行をブロックしつつ、中小銀行という裏口は開けておくものとみていた。しかし、蓋を開けてみると、最大手のズベルバンクやガスプロムバンクが除外されていた。裏口だけでなく、表口も開けておいたイメージだ。

 これは、エネルギーの輸入先としてロシアとの取引が大きいドイツなどへの配慮だろう。他のEU(欧州連合)諸国や米国は制裁を課したい。制裁の実施を優先し、妥協の産物として7行への制裁という形になったのではないか。

SWIFT制裁は「兵糧攻め」

制裁発動に関する意思決定のメカニズムはどうなっているのか。

 SWIFTの設立は1973年。欧米の15カ国、239行によってスタートした。実際にメッセージ処理を開始したのは1977年のことだ。ちなみに日本の銀行は、1981年にSWIFTの利用を始めている。

 SWIFTはベルギー法人なので、ベルギーあるいはEUの命令があると従わざるを得ない。2012年のイラン制裁では、EUが指令を出した。ところが2018年の同国制裁は、米国が強引に押し切った格好だった。本来、米国にはSWIFT制裁の権限はない。根拠が曖昧なまま実施したこともあってか、SWIFTは「今回の制裁はリグレッタブル(遺憾)である」という声明を出している。

 SWIFTは25人のボードメンバーで構成しており、各国の使用量に応じて理事を1人か2人出す形になっている。米国は理事を2人出す国ではあるが、あくまでボードメンバーの一員という扱いであり、EUとは違って権力を振るう余地はないはずだ。

SWIFT制裁の効果をどうみるか。

 いわば「兵糧攻め」のようなもの。1週間や2週間で効果が出るわけではないが、当該国は輸出入ができなくなるなかで、じわじわと経済が痛んでいく。

 今回は全ての銀行を対象にした対イランへの制裁に比べると限定的だが、波及効果という点では特筆すべき動きが出てきている。民間企業によるロシア市場からのボイコットだ。EUと米国がロシアをSWIFTから切断する決断を下したことは、象徴的な意味を持つ。

 もちろん、大手7行をブロックすることによる直接的な効果もあるが、それに加えて、民間企業のボイコットを誘発したということで、かなりの効果があったと言えるだろう。