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 決済大手の米Stripeが、日本市場向け機能を立て続けに投入している。2022年3月に「コンビニ決済」、同年4月14日に入金消し込みの自動化や返金処理などの機能を備える「銀行振込」の提供を始めた。これらの機能開発を支えているのは、日本を含むグローバルなエンジニアリングチームだ。ストライプジャパンで共同代表取締役を務めるダニエル・ヘフェルナン氏に開発の舞台裏を聞いた。

ストライプジャパン共同代表取締役のダニエル・ヘフェルナン氏
ストライプジャパン共同代表取締役のダニエル・ヘフェルナン氏
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2020年にStripeの開発拠点を日本に設置したのは、この市場を重視しているという表れか。

 その通りだ。Stripeの開発拠点は現在、7つある。サンフランシスコ、シアトル、ダブリン、シンガポール、リモート(特定の拠点はなし)は「エンジニアリングハブ」と呼び、人材をどれくらい採用できるか、ビザの取得プロセスはどうか、海外から人材をどれくらい呼びやすいか、税金はどんな形態か、などを考慮して選定した。一方、日本とロンドンの2拠点は、その国が当社にとって欠かせない市場かどうかで選んでいる。

 日本向け機能を優先順位付けしたリストは、日本に拠点を設置する前から存在していた。だが、2018年にジェーシービー(JCB)のクレジットカード決済に対応した際など、リストに載せた機能を開発するときにはその都度、本社側のチームと交渉する必要があり、スケジュールに加えてもらえない場合も少なくなかった。外資系企業ではよくある話だ。

 日本に開発拠点を置くことで、社内のチームと調整するだけでなく「自分たちで手掛ける」という選択肢も可能になった。

シンガポール拠点を巻き込む

銀行振込機能はどのように開発したのか。

 最初のデザインは、欧州の開発拠点が存在する以前に米国でスタートした。その後はダブリンの拠点を中心にプロジェクトを進めていたが、日本特有の部分や、他の国と共通だが日本の方が必要性が高い部分などは、日本拠点で優先して開発した。

 他のチームとタッグを組むことも多く、エンジニアリングハブのほとんどと協力しつつ開発を進めた。開発には約2年かかり、工数も大きかったが、さまざまなチームと協力できたほか、他の国にも銀行振込機能のニーズがあったのでグローバルに貢献できたのは良かったと思う。

開発で特に苦労した点は。

 大きかったのは返金機能だ。他の決済手段では返金できるのに、銀行振込でできないのは不便。1万円の売り上げを返金する際に別の送金サービスを使って1万円を返すような形だと、使い勝手が悪いうえに、つい忘れてしまう、2回送ってしまう、金額を間違える、といったミスが生じる恐れもある。早い段階で、きちんとした返金機能を作ろうということで合意できていた。

 問題は、誰がこの機能を実現するか。本社やダブリン拠点で開発チームを設けるのは難しい状況だった。だが、日本にとってこの機能は欠かせない。そこで日本の状況を知っているシンガポール拠点の協力を仰いだ。開発者を3、4人アサインしてもらって開発チームを作り、日本からもエンジニアが参加して共同で開発を進めた。

 この返金機能は、先に提供を始めたコンビニ決済機能の一部として活用しているほか、他の市場でも返金機能が含まれていない決済手段で同じコードを利用している。現在、8つくらいの決済手段がこの機能を利用している。