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Trust Baseは、三井住友トラスト・グループにおけるDX(デジタル変革)推進の担い手として出発した。Trust Base CEO(最高経営責任者)の田中聡氏が、「手をつけないという選択肢はない」と断言するのがデジタルアセット事業だ。金融機関が続々と参入するデジタルアセットの展望を聞いた。

(聞き手は岡部 一詩=日経FinTech編集長)

Trust Base 取締役 CEO 兼 三井住友信託銀行 デジタル企画部 主任調査役 田中 聡 氏
Trust Base 取締役 CEO 兼 三井住友信託銀行 デジタル企画部 主任調査役 田中 聡 氏
写真:Trust Base
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Trust Baseを設立した狙いを教えて欲しい。

 当社は、三井住友トラスト・ホールディングスの100%子会社として、銀行のDX(デジタル変革)を推進する役割を担っている。原則、グループの銀行から売り上げをあげている。

 新会社を作った理由は大きく3つある。1つは、チャレンジのハードルを下げるためだ。銀行にはセキュアな開発基準があり、明確なルールが存在する。当たり前と言えば当たり前だが、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)に少し触れようとするだけでも、クリアすべきハードルが高い。

 競合が金融機関なら問題はないだろう。しかし、金融領域に参入してくる異業種が相手となると話は別だ。当たり前のように最新技術に挑戦する異業種には勝てないという認識があった。銀行とは別の意思決定権やクラウド環境を用意し、例えばアプリ開発などを次々とやれる状態が必要。これを実現するには、全く別の法人を作らないと難しかった。

 2つめは人材採用の側面だ。銀行では、社員にどんな仕事にコミットしてもらうかは銀行側が決める。しかしエンジニアは、自身のキャリアでどんな仕事を通じて能力を高めるかに重きを置いている。

 そこでデータ人材やクラウド人材といった具合にジョブ型の採用にして、ダイレクトスカウトをする形にした。採用そのものは銀行側で実施して当社に出向という形を採っているが、まずはエンジニアが働きやすい環境を実現したかった。

 3つめは、共創の促進だ。消費者が求めるサービスを独自に生み出して磨くのは難しい時代になっている。ベンチャー企業とのイノベーションを起こせるようにしたかった。銀行にもできるかもしれないが、別会社を作ることによって我々が本気だというメッセージを示したかった。

 既に、別会社を作って良かった面が出てきている。例えば、三井住友信託銀行はコンタクトセンターを10以上抱えている。事業ごとに最適化してきたからだ。データ分析をするためにさまざまなカスタマイズが必要だったり、採用・研修フローが別々だったりと、組織全体の視点では不要な苦労もある。

 当社がコンタクトセンターのCX(顧客体験)向上施策を手掛けているなかで、業務プロセスの変革を含めた合理化プロジェクトなども進み出している。

ほかには、どのようなプロジェクトがあるのか。

 大きく8つのプロジェクトに取り組んでいる。クラウドの高度化といったものもあるが、新しい領域として力を入れているのがデジタルアセットだ。

 例えば、セキュリティートークン(ST)を巡る課題の1つとして、権利を移転させた際に第三者対抗要件をいかに具備させるかという問題がある。STを移転する裏側でアナログな事務作業が必要で、デジタルで手続きを完結するのが難しかった。

 そこで新技術等実証制度を活用し、アクセンチュアと共同でテストを実施した。産業競争力強化法に基づく新事業活動計画の認定を受けることができれば、ブロックチェーン上の記録を書き換えることで第三者対抗要件を満たせるようになる。ここをクリアすればSTが普及するというわけではないが、大きなステップであることは間違いない。

 STの良さは、デジタル上で権利移転を完結できること。ただし日本円で決済をするとしたら、金融機関などが間に入り、既存の決済システムなどが必要なため、劇的にコストを下げるのは難しい。やはり、ステーブルコインに変わっていくだろう。