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アコムが2022年4月、Embedded Finance(組み込み型金融)を手掛ける新会社GeNiEを新設した。事業会社をターゲットにローン機能をはじめ、給与前払いやBNPL(後払い)といった機能を提供する方針だ。新会社社長の齊藤雄一郎氏は、「(ハードルの高い)ローンが二階だとすれば、そこにつながるような中二階のようなサービスを用意する」と、狙いを語る。業法改正や利息の返還請求などの対応に長らく追われてきたアコムが、攻勢に打って出る。

(聞き手は岡部 一詩=日経FinTech編集長)

GeNiE 代表取締役社長の齊藤雄一郎氏
GeNiE 代表取締役社長の齊藤雄一郎氏
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新たに設立したGeNiEは、どのような事業を手掛ける予定なのか。

 4月1日に会社を設立し、今は貸金業登録の申請中というステータスだ。Embedded Finance(組み込み型金融)に関わるサービスを提供していく。

 デジタルの世界で、ユーザーの文脈に合った場所にローン機能や信用に関わるサービスを置いていく。具体的には、ローンを巡るバリューチェーンの1つひとつをパッケージにして、事業者に提供することを構想している。

 肌感として、金融事業を始めたいと言うテック企業が数年前から増えてきた印象だ。しかし、一般の事業者が全てに対応するのは難しい。迅速に参入できる仕組みを作って販売できれば、事業者の課題を解決できる。

 エンドユーザー側にも課題があった。例えばEC(電子商取引)を眺めていて欲しいものが見つかったものの、手元にお金がないとする。そこで「キャッシング」で検索して申し込み、またECに戻ってくる。これは、体験としてあまり良いものではない。ECとキャッシングで分断されていた体験を一気通貫にすることで、より便利な世の中にできる。要はEmbedded Financeの世界だが、こうした課題も解決したい。

 ローン以外も手掛けるつもりだ。クレジットカードや給与の前払い、BNPL(後払い)、個品割賦からスコア提供まで視野に入れている。これらを事業者の業態に応じて、アラカルトで届ける方針だ。

 3カ月程度で導入できるように、いまシステム仕様を詰めているところ。初期導入費は無料にする。事業者のブランドとチャネルを借りてサービスを提供する形であり、我々はあくまで場を借りる立場。最初からお金を取るつもりはない。

 まずはステップ1として、今年(2022年)の年末年始をめどにローンなどの提供を開始できるように準備を進めている。その1年後には、ステップ2としてBNPLや給与前払いにも踏み出したい。

中二階に当たるサービスを用意

BNPLや給与前払いをラインアップに加える狙いは何か。

 これまでは、ローンを求めて顧客がアコムに来てくれていた。これに対しEmbedded Financeの世界観では、ローンを借りるために何らかのアプリを使っているわけではない。そのアプリで生じる一部の資金ニーズに少額から応える必要がある。

 その際、ユーザーはアプリ内で「借りる」ボタンを簡単にはタップしないと考えている。ハードルが高いと感じるからだ。ローンが二階だとすれば、そこにつながるような中二階のようなサービスを用意する。それがBNPLや給与前払いという位置づけだ。

 まずはローンから始めるつもりなので、それと親和性の高そうな事業者を最初のターゲットに据えている。具体的には、ジョブマッチングや賃貸仲介といった領域を想定している。

 ステップ2からは、小売りやエンターテインメントなど、少額の資金ニーズが発生するような領域を狙っていきたい。

「Credit as a Service(CaaS)」を提供するCrezitと協業した。

 Crezitとの出会いは、三菱UFJフィナンシャル・グループのアクセラレータープログラムだ。我々はメンターとして入っており、「一緒に何かできないか」と3~4カ月間にわたって話をしていた。

 プログラムが終わった後、2021年6月末ごろにCrezitからラブレターをもらった。当社としても危機感を募らせていたことに加え、金融が機能化する時代に沿った事業に取り組むべきだと考え、MoU(覚書)を締結した。

 Crezitとのディスカッションから生まれた事業ではあるが、社内的な危機感や環境の変化が後押しになって、新会社設立に至ったという流れだ。