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 「自動車産業の中だけで、このまま成長を続けていくのは難しい。いま世の中は激変しており、さまざまな社会課題が生じている。これらの課題を解決するためのビジネスを手掛ける会社になることができれば、我々はさらに成長できる」。ソミックトランスフォーメーションで代表取締役を務める石川彰吾氏は、こう力を込める。

 ソミックトランスフォーメーションは、1916(大正5)年に創業した自動車部品メーカーであるソミック石川をはじめとするソミックグループの1社。新規事業の開発を目的として、2021年11月に設立された。2022年6月に、シンガポールのFinTech企業であるA.D.SYSTEMSへの出資を発表。複数のテーマで共同プロジェクトを実施する計画だ。

ソミックトランスフォーメーションのWebサイト
ソミックトランスフォーメーションのWebサイト
(出所:ソミックトランスフォーメーション)
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 創業107年目の自動車部品グループが、なぜシンガポールのFinTech企業と手を組むのか。その背景には、自動車関連事業一辺倒の現状に対する強い危機感がある。

100年に1度の大変革期をどう乗り越えるか

 ソミックグループは、ボールジョイントやダンパーといった自動車部品の開発や製造、販売などを手掛ける。ボールジョイントはハンドル操作をタイヤに伝えたり、タイヤを正しい方向に保持したりする球状の軸受けを指す。ダンパーは急な動きを制御して衝撃を和らげる装置で、自動車のシートなどに使われる。日本を含む7カ国で事業を展開しており、グループ全体の年間売上高は約900億円に達する。

 特にソミック石川が扱うボールジョイントは主力製品の1つだ。トヨタ自動車をはじめとする日系自動車メーカー向けに提供しており、「国内シェアは50%を超えており、商用トラックを含めた自動車の過半数が搭載している」(石川氏)という。

 その一方で、「自動車産業は大変革期を迎えようとしている。今のままのやり方では、当社自身が持続可能ではなくなる恐れがあるという課題に直面していた」(石川氏)。競争力を高めるために、まずはグループ全体の組織改編を進めた。2018年に持ち株会社化、2021年にグループ内の事業の統合・分社化を断行。ダンパー事業はソミック石川から新会社のソミックアドバンスに移行させた。

 このように既存事業の体制を再編したうえで、自動車産業以外の分野で新規事業を生み出すために誕生したのがソミックトランスフォーメーションだ。石川氏は、同じく同社代表取締役を務める大倉正幸氏と「2030年までにグループ全体の年間売上高を3000億円に伸ばそうと議論を重ねている」と話す。両氏は、持ち株会社ソミックマネージメントホールディングスの取締役も兼任している。

 この目標を達成するには、成長のドライバーとなる新規事業が欠かせない。そのための「種」として目を付けたのがFinTech分野だった。

「評価されていない価値」を可視化

 「互いに目指している世界観が一致していた」。大倉氏は、A.D.SYSTEMSを協業相手に選んだ理由をこう説明する。