ヤフー傘下のレンタルサーバー事業者であるファーストサーバ。中小企業など2万社が利用する同社のレンタルサーバーを、ヤフーの仮想化基盤上に整備した環境へと移行した。これに伴い、老朽化していた物理サーバーを1881台廃棄した。移行プロジェクトの現場責任者である辻野欣悟カスタマーサービス部部長は、「想定できないつまずきもあったが、全社一丸となって乗り切れた」と振り返る。
ハードやソフトの老朽化をきっかけに、新しい環境への移行を迫られるケースは、一般のユーザー企業でも直面する。ファーストサーバは今回の移行プロジェクトを通じて意外な教訓を2つ得たという。その教訓は、移行を検討するユーザーも知っておく価値がある。
ユーザー任せでは10年がかりになってしまう
レンタルサーバーは、サーバー機器とWebやメールなどのサーバー用ソフトを組み合わせて顧客のユーザー企業に貸し出し、運用管理を代行するサービスである。2000年代前半から利用が広がってきた。長年続くサービスだけに、初期のユーザーを抱える事業者ではハード、ソフトの老朽化に悩んでいることが少なくない。
例えば保守期間がとっくに切れたサーバー機器の部品調達に奔走したり、種類が膨れ上がったサーバー機器やソフトウエアの運用管理が複雑になったりといった具合である。老舗といえるファーストサーバにとっても長年の懸案だった。
同社はヤフーの仮想化基盤上に新しい環境を構築した2015年から、ユーザー企業に新しい環境への移行を要請した。だが、移行支援ツールを用意した上でメールや書面で作業を依頼しても、ほとんど実施してもらえなかった。2017年4月までにユーザーが移行を完了もしくは解約した数は、3341契約分にとどまった。単純計算では、全ての移行が完了するまでにおよそ10年を要することになる。
そこで同年5月、ファーストサーバ側で移行作業を実施する方針を固めた。大量のユーザーの環境を移行するだけに、慎重を期して計画を立てた。大きく3期に分けた上で、各サーバーの移行日を設定。ユーザーの要望で作業日程の変更が3割程度発生することなどを見込んでスケジュールを組んだ。移行によってトラブルが発生する確率が高いユーザーには「カルテ」と呼ぶ個別のシステム診断情報を提供。発生しうるトラブルや対処法を伝え、移行に備えてもらうなどの工夫もした。
それでも2017年8月にいざ移行作業に取りかかると、やはり一筋縄ではいかなかったという。ファーストサーバの辻野氏は「8月初めには想定外の事態につまずき、きつかった」と打ち明ける。