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 自動ブレーキ(AEB)だけでは回避し切れない前方衝突。ステアリングの操作を支援してそうした衝突の回避を狙うのが“自動操舵回避”(AES:Automatic Emergency Steering)機能だ。2016年、ドイツ・ダイムラー(Daimler)が高級車ブランド「メルセデス・ベンツ」の「Eクラス」で実用化。2017年には「Sクラス」にも展開した。それに続いたのが、スウェーデン・ボルボ(Volvo)やトヨタ自動車。Volvoは新型SUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)「XC60」に、トヨタは高級車ブランド「レクサス」の新型セダン「LS」にAESを採用した()。

表 自動操舵回避の支援機能を搭載している代表的な車種とその機能の概要
XC60は、車両前方の障害物に対する自動操舵回避(AES)機能以外に、対向車や後側方から接近してくる車両に対する自動操舵による回避機能も備える。〔出所:Volvo(XC60の写真)〕
表 自動操舵回避の支援機能を搭載している代表的な車種とその機能の概要
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 狙いは、大きく二つ。一つは、「交通事故による死傷者数の削減」(トヨタ第1先進安全開発部主幹の名波剛氏)である。もう一つが、米自動車技術会(SAE)が定めるレベル4以上の自動運転に向けた準備だ。AESは、自動運転の基盤技術になるとみられている。

 死傷者数の削減にAESが有効とみられるのは、多くの運転者にとって操舵して衝突を回避することが難しいからである。ブレーキを強くかけて十分に減速しつつ、制御不能になるほど車両の動きが不安定にならないように大きくステアリングを切らなければならない。さらに回避後は、車両を安定化した上で、車両を停止させるか安全な場所へ移動させる必要もある。

 ドイツ・ゼットエフ(ZF)グループのTRWオートモーティブジャパンチーフ・エンジニアを務めるブノア・ワッシェ(Benoit Wache)氏は、「運転技術を十分に身に付けた運転者は少ない。99%の運転者は、AESを使った方が衝突をうまく回避できる」と語る。

 一方、AESがレベル4以上の自動運転の基盤技術になるのは、上空から車両前方に何かが落下してくる、前方から他の車両が逆走してくるなど、クルマが予期できない状況でも適切な操舵で安全を確保しやすくなるからだ。レベル4以上の自動運転では、緊急回避する状態になるべく陥らないように、クルマを制御するのが基本である。だが、周囲はときとして予想外の動きをする。そうした場合に対応する手立てがないと、「自動運転は、通常の手動運転よりも危険なモードになってしまう」(Wache氏)。