ドイツ・フォルクスワーゲン(VW)グループのアウディ(Audi)は、2018年内に量産する電気自動車(EV)の駆動モーターに、永久磁石を使わない新開発の誘導モーターを採用する。EVやハイブリッド車(HEV)では、小さく高トルクにしやすい永久磁石式モーターを使うのが一般的で、誘導モーターの採用は珍しい。中国に偏る磁石材料の調達リスクを避けた。走行中にモーターを停止するときの損失低減も図る。
Audiは2018年5月9日、2025年にEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)で合わせて80万台販売する目標を掲げた。同社の世界販売の約1/3に相当し、多くをEVが占めるとみる。次期EVは、Audiにとって目標達成のカギを握る戦略車と言える。同車のプラットフォームや部品を流用し、25年までに20車種以上のEVとPHEVを投入する計画である。
年内にEV「eトロン(e-tron)」シリーズのSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)をベルギーBrussels工場で生産し、欧州で発売する。誘導モーターはハンガリーGyor工場で内製。車両の前に1基、後ろに2基搭載する4輪駆動車(4WD)である。合計出力は320kWと大きく、エンジン車のSUV「Q7」と「Q5」の間に位置する車両とした。
誘導モーターは、外側の固定子(ステーター)に搭載したコイルに電流を流して誘導電流を発生し、導体で造る内側の回転子(ローター)を動かすもの。ローターに永久磁石を使わない非同期モーターである。Audiが同モーターに着目したのは、「材料調達のリスクが小さい」(同社Head of the Central Development-Drive Systems Architecture and Integration DepartmentのSiegfried Pint氏)ことが大きい。
EVなどの永久磁石式モーターでよく使うネオジム-鉄-ホウ素(Nd-Fe-B)系磁石、いわゆるネオジム磁石は、希土類元素(レアアース)のNdに加えて添加剤のジスプロシウム(Dy)の生産が中国に集中し、調達に不安がある。中国はかつて、レアアースの輸出規制を実施した。