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 楽天がソフトウエア開発者向けの事業に参入する。同社は、ソフトウエアの機能を外部に公開する仕組みであるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の流通を仲介するサービス「Rakuten RapidAPI」を開始した。

 API流通で先行する米Rソフトウエアと提携した。Rソフトウエアは2015年に創業し、APIのディレクトリー(検索)とマーケットプレース(流通)を目的にしたWebサービス「RapidAPI」を運営する。開発者が目的に合ったAPIを探し、動作を試し、自らのプログラムに組み込み、呼び出した回数に応じた利用料を支払うまでの一連のプロセスを支援・仲介するサービスである。

 10代で同社を創業したイド・ジノCEO(最高経営責任者)は、開発者にとっての使いやすさを重視することで利用者を加速度的に増やしてきたと話す。RapidAPIには約5000の企業や個人が提供する8000以上のAPIが登録されている。50万人の開発者が利用しており、APIマーケットプレースで世界最大規模をうたう。

 楽天が立ち上げた「Rakuten RapidAPI」は、RapidAPIの日本を含むアジア版の位置付け。今回の提携で楽天はRapidAPIをアジア地域で独占的に提供する。7月11日に立ち上げたサイトは日本語版だが、アジア地域の他の言語にも順次対応させていく計画だ。

 事業化を指揮してきた楽天の平井康文副社長は「英語圏向けのRapidAPIとは別に、Rakuten RapidAPI単独で70万人の開発者を2022年までに新たに獲得する」と普及に自信を見せる。同事業の売り上げ目標は非公表。楽天は利用者がAPI提供者に支払う利用料の一部を手数料として受け取る。

楽天で事業化を指揮する平井康文副社長(左)と、提携先である米Rソフトウエア創業者のイド・ジノCEO(最高経営責任者)
楽天で事業化を指揮する平井康文副社長(左)と、提携先である米Rソフトウエア創業者のイド・ジノCEO(最高経営責任者)
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あらゆるビジネス機能がAPIで公開される

 楽天は「楽天市場」を中核に金融や旅行、携帯電話など消費者向けの事業を拡大してきた。ソフトウエア開発者を対象にした今回のAPIマーケットプレースは、これまでの楽天の事業展開からすると異質だ。

 平井副社長は「楽天が持つ経営資源やノウハウを生かせる点では連続性があり、シナジー効果も発揮できる」と話す。APIマーケットプレースはネット企業やITベンダーが主に参画するソフトウエア機能の流通だけにとどまらない。

 平井副社長は「API流通は企業や業種を越えたバリューチェーンを生みだす」(平井副社長)と見ており、あらゆる企業間の取り引きやビジネス連携がAPIを通じて行われるとみている。こうした未来を実現するため、自社の強みを発揮しながら、API流通を様々な企業、業種に普及させる役割を担うのが楽天の狙いだ。

 楽天がAPI流通に参入する狙いはもう1つある。楽天自ら、自社のビジネス機能やソフトウエア資産をAPI化して外部に流通させることだ。楽天は社内で楽天市場などの自社サービスやAIなどソフトウエア資産のAPI化を進めており、2017年に約450のAPIを整備した。現在は社内利用に閉じているが、公開可能なAPIは順次Rakuten RapidAPIに展開、自社サービスへの接点を増やして「楽天経済圏」の拡大を狙う。

米国では事業会社がAPIを公開した事例も

 Rソフトウエアが米国などで展開中のRapidAPIでは、主にネット企業やITベンダーが提供するAPIが流通している。利用が多いAPIの上位には「Pinterest」や「Slack」、「Yelp」などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やコミュニケーションツールの機能呼び出しAPIのほか、データ処理系のAPIが目立つ。ヘッダーなどからメールの正確性を検証するAPIや人工知能(AI)を使った画像認識のためのAPIなどだ。米マイクロソフトや米IBM、米グーグルなどが提供する各種APIも掲載されている。

Rakuten RapidAPIのトップ画面。利用ランキングや検索、ジャンル分類などから目的にあったAPIを探せる。
Rakuten RapidAPIのトップ画面。利用ランキングや検索、ジャンル分類などから目的にあったAPIを探せる。
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 一方で、事業会社が自社のビジネス機能をAPIで公開し、成功を収めた事例も出始めているという。RソフトウエアのジノCEOが1例として挙げたのが、家電量販チェーンの米ベストバイだ。同社は取り扱い商品の在庫情報を問い合わせたり、商品を注文したりできるAPIをRapidAPI上で公開した。このAPIが企業の福利厚生サービスなどに使われ始めているという。

 社員数が多い企業などでは、福利厚生用の社内Webサイトを整備して、成果を達成した社員向けの報奨や特典で利用できるサービスを一覧で掲載している。こうした社内サイトからベストバイのAPIを呼び出し、商品を注文できる仕組みを実装する例が増え、ベストバイの売り上げに貢献しているのだ。