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 理論容量密度が4200mAh/g(黒鉛の11倍超)と高く、リチウムイオン電池(LIB)のエネルギー密度向上に寄与する新しい負極材料として期待されているのが、シリコン(Si)負極である。しかし、電池の充電に伴いSiの体積が約4倍に膨張することで、電池の寿命が短くなるという課題を抱える。そのため、現状の民生用や車載用の電池では、負極にSiを適用する場合は黒鉛などの炭素系材料と混合・複合化して使うケースが多い。ただ、炭素系材料と混合・複合化すると、Siの理論容量密度の高さを十分に生かし切れない。

 そうした状況を打破するために、新たな方策を見いだしのが、物質・材料研究機構(NIMS)エネルギー・環境材料研究拠点二次電池材料グループ主任研究員の太田鳴海氏らのグループだ。同グループは、LIBではなく全固体電池にこそSi負極が向くと判断。硫化物系の全固体電池へのSi負極の適用に道筋を示した。

 NIMSが見いだしたのは、硫化物系の全固体電池にSi負極を使う際に課題となるサイクル寿命を改善する技術だ。Siを緻密な膜として使うのではなく、膜の中に直径10n~50nmの空隙が多数存在するナノ多孔質膜として利用する。同空隙によってSiの膨張収縮で発生する応力を吸収するとともに、Siの粒子サイズをnmオーダーと小さくすることで膨張収縮で生じる応力そのものも減らす。

 Si負極の膨張収縮によって電池の寿命が縮まるのは、負極に亀裂や剥離が生じたり、負極表面に形成された保護被膜(SEI)が剥がれ落ちたりするためだ(図1)。SEIは電解液が分解することで生成される。このため、SEIの生成が繰り返されると、電解液が減少・劣化する。また、SEIの形成過程で一部のリチウム(Li)がSEI内に取り込まれるため、SEIの生成の繰り返しで可逆容量が減り、寿命が短くなる。加えて、SEIは電解液よりも抵抗が高い。そのため、脱落したSEIが負極の活物質(Si粒子)の間に詰まると電池の内部抵抗が高くなるという問題もある。

図1 Si負極をリチウムイオン電池に適用する場合の主な課題
図1 Si負極をリチウムイオン電池に適用する場合の主な課題
全固体電池へのSi負極の適用でも、充放電に伴う大きな体積変化は課題だが、Siと電解質は固体の粒子同士の接触となるため、紫色で示したSEIの再生成反応は進みにくい。全固体電池では、体積変化に伴う応力変化を緩和することでSi負極の適用が図れる可能性がある。
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