トヨタ自動車とソフトバンクが2018年10月4日に発表した、MaaS(mobility as a service)事業を手掛ける共同出資会社の設立。トヨタの豊田章男社長は会見中、ある場面で深々と頭を下げた。
「私と友山の2人で孫さんのところに出向いて提案をお断りしたことを、今でもはっきりと覚えております」。豊田社長が披露したのは約20年前、ソフトバンクから協業の申し入れがあったときのエピソードだ。
当時の豊田氏は課長として、直属の係長だった友山茂樹氏(現副社長)らと共に中古車のネット商談サービス「Gazoo.com」を立ち上げて間もない頃。ソフトバンクは米国で人気だった中古車検索サービスを日本市場でも展開しないかとトヨタに持ちかけたのだ。
せっせと自社開発してきたGazoo.comの競合となるサービスを受け入れることはできない。若かりし頃の豊田氏は友山氏を伴い、ソフトバンクに出向いて提携話を断る旨を伝えた。「今でこそ社長と副社長になりましたが当時は血気盛んな課長と係長でございましたので、いろいろ失礼もあったと思いますが、若気の至りということで、孫さんは大目に見てくださったのではないかと感謝しております」。そう言って深々と頭を下げた。
ソフトバンクと対立できないトヨタ
会見中に総大将たる豊田社長が頭を下げるほどに、トヨタはソフトバンクと組みたかった。その背景には、トヨタが提唱するMaaS事業を離陸させるうえで、ソフトバンクと対立するわけにいかなかった事情がある。
同社は2018年1月に米国で開催された国際技術展示会「CES」で、自動運転の電気自動車を使って移動や物流、物販などさまざまなサービスを提供する「e-Palette」と呼ぶ構想と、それに向けた試作車両を披露した。「トヨタはクルマをつくる会社から、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社、すなわちモビリティ・カンパニーに変革する」。豊田社長はそう宣言した。